「自分の好きなようにやれよ」―牧田和久の挑戦に光を差した野茂英雄氏の一言
2度目のマイナー落ち「マウンドの上で自分に余裕がないなっていうのはありますね」
6月中旬。リオ・グランデと呼ばれる川を隔てて、向こう岸はメキシコという国境沿いの街、テキサス州エルパソ。パドレス傘下3Aが本拠を置く地で、牧田和久は少し頭を悩ませていた。自分が選んだ道に対してではない。選んだ道でどう生き抜くか、についてだ。開幕をメジャーで迎えた33歳サブマリン右腕は、6月1日に今季2度目のマイナー降格を味わった。
「やっぱりレベルが高い。日本とは打者のスイングスピードも全然違いますし、選球眼もいい。技術的には日本の方が上だと思うんですけど、パワーだけじゃないんですよ。技術も備わってのパワー。もちろん、日本にも素晴らしい技術、パフォーマンスがありますけど、メジャーっていうのは、さらにその上を行くというか、本当に走攻守揃った選手が多いなって、実際に投げてみて、あらためて感じる部分が多いです」
特大ホームランが量産されたり、時速100マイル(約161キロ)を越える剛速球が何度も計測されたり、ここ数年は特にパワーが際立つメジャーにあって、牧田のような下手投げでスローボールを操るタイプは珍しい。流行を逆手に取ったスタイルが大きな武器となる可能性は大きく、実際にオープン戦や開幕後も、打ち気を弄ばれるような遅球に戸惑う打者は多かった。だが、平均80マイル(約129キロ)の速球は甘く入れば打ち頃のボールとなり、大量失点を招く。「もう少し真っ直ぐにスピードと切れがないと、こっちでは活躍できないと思います。ただ、今になってそういう技術を身につけるのは難しいところもあると思うので、今持っているものをより良くしていくしかない」と話しながら、表情を引き締めた。
高校、大学、社会人、日本プロ野球とステップアップするたびに感じたのが「スピードの違い」だった。「スイングのスピードが違う、球のスピードが違う、走るスピードが違う」という中で、スローボールを駆使しながらハードルを飛び越えてきた。「明らかに違う」というメジャーで感じるスピードの差にはどう対応したらいいのか。「いいピッチャーの球筋を見るのか。打者のスイングや仕草を見るのか。まだマウンドの上で自分に余裕がないなっていうのはありますね」と正直な気持ちを明かす。