両軍総立ちの大歓声に「ハッとさせられた」 がん克服のセーブ王…感慨の復帰登板

エンゼルス戦に4番手で登板したWソックスのリアム・ヘンドリックス【写真:ロイター】
エンゼルス戦に4番手で登板したWソックスのリアム・ヘンドリックス【写真:ロイター】

悪性リンパ腫から復帰したヘンドリックス「その瞬間を噛み締めた」

■エンゼルス 6ー4 Wソックス(日本時間30日・シカゴ)

 敵も味方も関係なく、総立ちで迎えた球場を見渡し、思いがこみ上げた。29日(日本時間30日)、本拠地でのエンゼルス戦に登板したホワイトソックスのリアム・ヘンドリックス投手は、今年1月に公表した悪性リンパ腫から復帰後、初めてのマウンドだった。2021年に38セーブをマークしてア・リーグのセーブ王に輝いた右腕。結果は1回を投げ2失点だったが、「立ち止まって観客を見渡して、その瞬間を噛み締めた。素晴らしかった」と喜んだ。

 1点ビハインドの8回にその時はやってきた。ブルペンからマウンドに向かうと、球場中から拍手が沸き起こった。外野の大型ビジョンには「Close out cancer(がんを一掃せよ)」の文字。誰もが守護神の帰還を待ち望んでいたのがよくわかる光景だった。

 結果は納得いくものではなかった。先頭のサイスに中安打と盗塁を許すと、二ゴロ、四球で1死一、三塁のピンチを作った。ネトの犠飛で失点し、モニアック、トラウトの連打でもう1点を失った。それでも、大谷を遊ゴロに仕留め、1回を投げ切ると、球場中が拍手喝采。プレスボックスの記者たちも総立ちで称えた。

 試合前には、ダウンタウンを歩くヘンドリックスに「幸運を祈るよ」「おめでとう」と直接声がかかった。球場には母国である豪州の旗を掲げるファンの姿も。「間違いなく感情的になった。色んなことが頭によぎった。登板するときは緊張していたし、ファンが自分のユニホームを着たり、ボードを掲げたり、国旗を掲げたり、チャントを歌う姿を見て謙虚な気持ちになったし、ハッとさせられるような瞬間でもあった」。

 味方だけでなく、他球団もヘンドリックスの復帰を喜んだ。エンゼルスのフィル・ネビン監督は試合前に「戻ってきて嬉しいよ」と声をかけた。ブルージェイズからは球団を通じてお祝いの言葉が贈られた。登板した際には、エンゼルス側の一塁ベンチも総立ちだった。ただ、ヘンドリックスはすぐさま、ビジターベンチを「見ないようにした」という。「感謝しているし、素晴らしいことなんだけど、(彼らをずっと見ていたら)試合のマインドセットに持っていくことが難しくなってしまう。だから『彼らは酷い人なんだ』と思いこむようにした」と笑う。それでも、「でも私は(彼らに)とても感謝している」と何度も口にした。

 念願の復帰登板も「今日はスライダーが悪かった」と投球への反省は怠らない。「抑えを投げらないことに満足することはないが、それは自分で掴まないといけないことだ。タダで渡してくれる役割ではない」「リハビリ登板として投げているつもりはない。戻ってきたからには、3日間(いつでも)投げられるようにするつもりだ」。苦難を乗り越えた右腕は、再び守護神の座を実力で勝ち取るつもりだ。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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