最下位・中日の20歳剛腕が残した“異次元”の指標 セイバー目線で選ぶ6月のセMVP

中日・高橋宏斗【写真:荒川祐史】
中日・高橋宏斗【写真:荒川祐史】

6月のセ・リーグは得点力を落としたチームが多い

 先月の打撃好調ぶりが幻だったかのように、得点力が激減したチームが多かった6月のセ・リーグ。その結果、4シーズンぶりに交流戦でパ・リーグに負け越した。そんな6月のセ・リーグの「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。

 まずは、6月のセ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

○広島:14勝9敗
得点率3.87、打率.259、OPS.693、本塁打13
失点率3.79、先発防御率2.88、QS率69.6%、救援防御率4.62

○DeNA:13勝10敗
得点率4.09、打率.256、OPS.674、本塁打9
失点率3.29、先発防御率2.72、QS率56.5%、救援防御率3.61

○巨人:12勝9敗
得点率3.52、打率.268、OPS.733、本塁打24
失点率3.15、先発防御率3.53、QS率52.4%、救援防御率2.36

○中日:10勝11敗
得点率2.57、打率.223、OPS.587、本塁打9
失点率3.11、先発防御率2.38、QS率60.9%、救援防御率3.86

○ヤクルト:9勝13敗1分
得点率3.71、打率.243、OPS.669、本塁打16
失点率3.66、先発防御率3.75、QS率47.6%、救援防御率 3.08

○阪神:8勝14敗1分
得点率3.52、打率.224、OPS.616、本塁打9
失点率3.49、先発防御率2.84、QS率 52.2%、救援防御率 3.92

 やはり5月に大きく勝ち越した阪神の凋落ぶりが目立つ。5月の平均得点が4.61なので、1点以上の減少。そして失点率も5月の2.88から3.49と悪化した。先発防御率には大きな変化がないが、救援防御率が5月の1.99から3.92と2点以上悪化している。DeNAは5月の失点率4.71から、6月は3.29と大きく改善し、月間の勝ち越しとなった。ただ気がかりは長打力の欠乏だ。5月の本塁打28本に対し、6月はわずかに9本。OPSも0.1の減少だ。

 広島は例年、交流戦で苦戦していたが今年は9勝9敗と五分で乗り切り、リーグ戦再開後は6勝1敗と好調だった。得失点差がそれほどない中でこれだけ大きく勝ち越せているのは投打の噛み合わせの良さの現れだろう。6月末時点で首位と2ゲーム差にまで詰め寄っている。

パ・リーグの投手相手にも打ちまくった岡本和真

 そんなセ・リーグのセイバーメトリクスの指標による6月の月間MVP選出を試みる。打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示す指標「wRAA」を用いる。セ・リーグの打者のwRAAランキングは以下の通り。

○岡本和真
wRAA:11.74、85打席、OPS1.143、打率.309、本塁打7

○坂倉将吾
wRAA:10.25、71打席、OPS1.154、打率.390、本塁打3

○大山悠輔
wRAA:8.23、100打席、OPS.871、打率.259、本塁打4

○牧 秀悟
wRAA:6.02、96打席、OPS.872、打率.319、本塁打3

○田中広輔
wRAA:5.96、58打席、OPS.959、打率.360、本塁打1

○西川龍馬
wRAA:5.85、95打席、OPS.849、打率.371、本塁打0

 なお、上記のランキングに掲載されていないチームの「wRAA」上位の選手は以下の通り。

○細川成也
wRAA:4.92、95打席、OPS.847、打率.244、本塁打5

○村上宗隆
wRAA:3.91、86打席、OPS.817、打率.264、本塁打3

 交流戦のMVPを獲得した岡本和真が、6月のセ・リーグでは最も打撃でチームに貢献したことを示している。5月は細川成也や宮崎敏郎の活躍があったことで目立たなかったが、岡本和も5月のOPSは1.053を記録していた。対戦機会の少ないパ・リーグの投手を相手に好調をキープし、巨人の月間勝ち越しに大きく貢献した岡本を、6月のセ・リーグ月間MVP打撃部門に推薦する。

勝ち星に恵まれなくても…高橋宏斗の投球は圧倒的な指標に

 また投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標「RSAA」を用いる。

○高橋宏斗
RSAA:8.04、登板4、イニング29回2/3、防御率0.61、WHIP1.01、奪三振率11.22、奪空振り率14.1%、QS率100%、HQS率75%

○才木浩人
RSAA:5.01、登板4、イニング26回、防御率1.38、WHIP1.00、奪三振率5.67、奪空振り率10.3%、QS率50%、HQS率50%

○今永昇太
RSAA:4.61、登板4、イニング32回、防御率1.41、WHIP0.78、奪三振率8.16、奪空振り率14.5%、QS率100%、HQS率100%

○菊地大稀
RSAA:4.34、登板10、イニング11回、防御率0.00、WHIP0.64、奪三振率12.27、奪空振り率10.6%、3ホールド

○ライデル・マルティネス
RSAA:4.15、登板8、イニング8回、防御率0.00、WHIP0.63、奪三振率15.17、奪空振り率18.0%、6セーブ、2ホールド

○床田寛樹
RSAA:3.92、登板4、イニング30回、防御率1.80、WHIP0.97、奪三振率3.90、奪空振り率7.1%、QS率100%、HQS率 75%

○九里亜蓮
RSAA:3.60、登板4、イニング30回、 防御率1.20、WHIP0.60、奪三振率9.00、奪空振り率12.0%、QS率100%、HQS率75%

なお、上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通り。

○小澤怜史
RSAA:2.48、登板4、イニング23回、防御率0.78、WHIP0.70、奪三振率5.48、奪空振り率9.6%、QS率75%、HQSなし

 6月のセ・リーグにおいて、最も貢献度が高かった投手は中日の高橋宏斗である。今季初登板の4月6日に勝利をあげてからは勝ち運に恵まれず苦しい登板が続いた。6月4日のオリックス戦でも7回を被安打5、奪三振13、無失点というハイクオリティスタート(HQS)の快投を見せるも、味方の援護に恵まれず敗戦投手に。しかしこの試合も含め、6月に登板した4試合では14%の空振りを奪い、バットに当てられても68%はゴロ打球となる投球でしっかりとゲームをメイク。すべての試合でクオリティスタート、2試合でHQSを達成した。月間の先発防御率2.38と、12球団で最も優秀な中日投手陣の屋台骨を支えてきた高橋宏を、6月のセ・リーグ月間MVP投手部門に推薦する。

○鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。
7月21日「セイバー語リクスナイトinYOKOHAMA」を開催。https://www.loft-prj.co.jp/schedule/naked/253137
コミュニティサイト「鳥越規央のデータ野球部」を開設。https://butaiura.fan/community/torigoenorio/

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。

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