2連覇中の林威助監督が“更迭” 日本人コーチの貢献で統一が優勝…前期の台湾プロ野球
昨年後期最下位からの「V字回復」…統一が16度目の半期シーズン優勝
前後期60試合、1軍5チームで行われる台湾プロ野球は7月14日から後期シーズンに突入した。今回は4月1日に開幕、7月3日まで行われた前期シーズンを回顧し、日本選手の入団、ドラフト会議など、シーズン前半の主なトピックを紹介する。(情報は7月17日現在)
6月29日、前期シーズンの優勝マジックを1としていた統一セブンイレブンライオンズは6月29日、富邦ガーディアンズと対戦した。試合は統一が3回、蘇智傑の9号ソロで先制、4回にも2点追加し優位に進めると、先発したベネズエラ人右腕、マリオ・サンチェスが8回4安打1失点の好投をみせた。4-1で迎えた9回、統一は3点を追加。富邦も戴培峰の2ランで点差をつめるも及ばなかった。
チーム通算16度目の半期優勝を果たし、最低でもプレーオフ進出以上を決めた統一。ビジターということもありパフォーマンスは控え目だったが、マジック点灯後に足踏みが続いたこともあり、58試合目での優勝に喜びを噛み締めていた。
統一は2020年、7年ぶりに台湾王者となり、翌2021年も台湾シリーズに進出したものの、昨季は投打の主力の離脱に泣いた。打では看板打者の陳傑憲、林安可、蘇智傑の3人のうち、林と蘇が長期欠場。前期こそ優勝争いを繰り広げたものの、勝負どころでそれまで無敗だった先発の柱、オンドルセク(元ヤクルト)の離脱もあり3位に終わった。後期は完全に低迷し、勝率は3割を切り、最下位の5位に沈んだ。
今季は林岳平監督、高志綱ヘッドコーチのコンビがWBC台湾代表を率い、チーム合流が遅れ、復帰予定の主力打者や外国人投手のコンディションも不透明だったことから、「V字回復」は予想しづらく、下馬評は高くなかった。4月は4連敗もあり一時最下位に沈んだものの、すぐに4連勝して立て直すと、5月下旬からは首位争いをしていた楽天モンキーズが失速した中、投打がしっかり噛み合い首位をキープ。終盤はやや苦しんだものの、味全、中信を振り切り逃げ切った。
林岳平監督は、チームの状態は台湾王者になった2020年の後期シーズンに近かったと振り返り、「後期も好成績をあげ、年間1位をとりにいく」と宣言した。
キーワードは「3-3-4」…前期シーズン優勝の統一、玉木朋孝内野守備コーチの貢献も
統一の前期優勝のキーワードは「3-3-4」だ。最初の「3」は、その圧倒的なパフォーマンスから「外野三鬼」と呼ばれる統一の3人の主力外野手だ。前期打率.312(リーグ4位)の陳傑憲。打率.296、12HR(同1位)の林安可。そして、打率.325(同3位)、9HR(同5位)の蘇智傑の「3」。
2つ目の「3」は、今季「外野三鬼」が不振、もしくは揃わなかった時期にその穴を埋めた「三老」こと、林益全ら大ベテラン3人の「3」。そして、「4」は、ローテーションの主力としてフル回転したオンドルセク、サンチェス、ダイクゾーン、サンプソンの外国人4投手の「4」だ。4投手はチームの総イニングの約半分を投げ、前期34勝のうち22勝を挙げた。
林岳平監督は「3-3-4」の活躍に加え、マショア打撃コーチ、玉木朋孝内野守備コーチ、ブルペンコーチから配置転換となった羅錦龍投手コーチの貢献を強調した。統一のチーム打率はリーグ2位の.276、39HRは同1位、打点、得点も同1位、防御率はリーグ唯一の2点台の2.76、台湾人投手が務めた救援防御率もリーグ1位だった。昨季の年間失策数125、守備率.972はいずれもリーグ最下位だったが、今季は春季キャンプから玉木コーチに鍛えられた内野陣の意識に変化が生まれ、前期の失策数43、守備率.981は共にリーグ2位と改善した。
課題がなかったわけではない。2勝2敗で5チームが並んだものの、失点が多くプールA最下位となったWBCの直後、台湾代表の監督だった林岳平監督は「台湾球界全体の投手層の薄さ」を敗因に挙げた。ただ、前期、統一の先発ローテーションを支え、優勝に大きく貢献したのは「3-3-4」の「4」。4人の外国人投手だった。
目の前の勝利を求めながら選手を育成するのは容易ではないが、同時に長期的な視野も求められる。前期勝利数、防御率リーグトップのサンチェスがKBO起亜タイガースへ移籍、新外国人投手のパフォーマンスは未知数である中、目標の年間1位を達成するためにも、台湾人先発投手のさらなる奮起に期待したい。
中信が2連覇中の林威助監督を「事実上の更迭」、他球団でも元NPB指導者の配置転換
前期のトピックとして、この件に触れないわけにはいかないだろう。中信兄弟を一昨年、昨年と連覇に導いた林威助監督の「事実上の更迭」だ。5月10日の試合前、球団は林監督が「家庭の事情」により、同日の試合の指揮を取らないことを発表。しかし、試合中に各メディアで配置転換のニュースが流れ騒然となった。試合後、劉志威GMから正式に、林威助監督の海外発展顧問への配置転換、副GMをつとめていた彭政閔ファームディレクターの1軍監督就任など、監督、コーチ計8人という大規模な人事異動が発表された。
昨季から林監督を支え連覇に貢献した平野恵一打撃兼野手統括コーチも、ファーム野手ディベロップメントディレクターへの配置転換が発表された。その後、正式発表はないものの、現在はチームとフロントの調整役を務めているという。
球団は、監督交代はチーム成績(5月9日時点で9勝15敗1引き分け、首位統一から5.5ゲーム差の最下位)とは無関係であり、長期的なチーム構想に基づいたものと強調したが、なおさら、このタイミングでの「更迭」は不可解であり、将来の監督候補と目されていたチームのレジェンド、彭政閔新監督や、1軍投手コーチ転任となった王建民コーチらが驚きを隠さなかったことから、メディアやファンの憶測、不満を呼んだ。
林監督は2017年限りで現役を引退。2軍監督に就任すると、厳しくも愛情ある指導で若手を鍛えた。その後、2020年オフに1軍監督に就任。すぐに前期シーズンを制し、台湾シリーズで勝てなかったチームを11年ぶりに台湾一へ導いた。昨季は前期こそ2位だったものの、後期シーズンを制すと、プレーオフから勝ち上がり、台湾シリーズでは前年に続きスイープ。史上初のシリーズ8連勝で連覇を達成し、今季は3連覇を目指していた。真相は不明だが、功労者がこうした形で現場を去ることになったことは残念である。
中信は57試合消化時点では統一に2ゲーム差の2位と、終盤まで逆転優勝の可能性は残していた。しかし、そこから3連敗を喫し、28勝28敗4分け。首位から5ゲーム差の4位に終わった。
また、開幕直後は好調だった楽天は、一番乗りすれば7割以上優勝を手中に収めるといわれる20勝に最初に王手をかけながら、そこから失速。6月6日には1、2軍コーチの配置転換を発表し、真喜志康永1軍内野守備走塁コーチ、許銘傑1軍投手コーチらが2軍へ、川岸強2軍首席投手コーチが1軍投手コーチとなった。楽天は2位・味全に1ゲーム差、4.5差の3位に終わった。
台湾プロ野球に日本人投手入団…福永春吾は台鋼、由規は楽天入り
明るい話題もある。日本人選手の加入だ。6月7日、昨年新たに参入した第6の球団で、今季から2軍公式戦に加わった台鋼ホークスは元阪神で、今季は台湾のアマチーム、台中市成棒隊でプレーしていた福永春吾投手の入団を発表した。福永は台鋼にとって記念すべき初の外国人選手となった。
プロ入りのきっかけとなった徳島インディゴソックスを始め、複数の国内独立チームのほか、メキシコでもプレーした福永は、これまでも台湾プロ野球でのプレー機会を狙っていたが、新型コロナウイルスの影響やテスト参加したチームの事情もあり、入団には至らなかった。昨年の末、台中市に入団。アマの春季リーグやプロアマ交流戦で好投し、チャンスをつかんだ。
劉東洋GMは「来季1軍で戦う上で、テストの意味合いに加え、同じ日本人の横田久則コーチがおり、実力をより発揮しやすいと思い獲得した」と説明。再びトップリーグでのプレーを夢見て、国内外のさまざまなリーグで奮闘してきた姿勢も評価した。福永はここまで練習試合も含め、いずれも先発で好投している。
また、楽天は7月1日、かつてヤクルト、楽天でプレーした、埼玉武蔵ヒートベアーズの由規投手の入団を発表した。モンキーズが楽天となって以降、初の日本人選手獲得であると共に、元楽天選手の入団も初となった。モンキーズは実際に関係者を派遣してコンディションを把握していたといい、「以前のような球速はないものの、投球内容はいい」と獲得理由を説明した。日本の独立リーグからの台湾プロ野球入りでは、田澤純一投手が2021年、同じく埼玉を経て味全入りし、クローザーとして30セーブをあげる大活躍をみせた。
15日付で「テスト外国人」として登録された由規。現在チームの外国人選手は5人。4枠の外国人選手登録期限は例年8月31日だ。まずは2軍で先発としてアピールすることが求められる。
ドラフトでは全体1位指名権持つ台鋼は元メジャーリーガーの林子偉を指名
7月12日にはドラフト会議が行われた。完全ウェーバー制で行われる台湾プロ野球のドラフト会議だが、昨年に続き新球団の台鋼ホークスには全体1位指名権が、そして今年は1巡目、2巡目は2人指名できるアドバンテージが与えられた。
今年は、例年に比べ目玉選手が少ないと言われた昨年よりもさらに小粒とみられていたが、7月3日、今年のWBC代表で、現在は米独立リーグでプレーする元メジャーリーガーの内野手、林子偉、さらに昨年のU-18W杯代表で海外でのプレーを希望していた外野手の林佳緯(穀保家商卒)がドラフト参加を発表。各球団の1巡目指名への関心が高まった。
林子偉か、高校球界を代表する右の大砲、王念好(北科附工卒)か。台鋼の1位指名に注目が集まったが、台鋼は実績ナンバーワン、本拠地高雄出身の地元のスーパースター林子偉を指名した。洪一中監督は「経験のある彼には、若い選手たちを牽引してもらいたい」と期待を示した。即戦力選手とあり、今季1軍で戦う5球団の中には、トレードを画策する球団があるという噂も出ているが、林子偉には是非とも台鋼の顔になってもらいたい。
トライアウト合格者含め、史上2番目に多い177人が参加も、指名は43人のみ。指名漏れ134人は過去最多だった。新条項による参加条件を満たし、ドラフトに参加した2人の日本人選手も2年連続で指名されなかった。
今年の下半期には、さまざまな国際大会が開催される。中でも9月末から行われる杭州アジア大会には台湾プロ野球の主力8人が代表入りしたほか、11月中旬に東京ドームで開催されるアジアプロ野球チャンピオンシップは6球団の若手で代表チームが構成される予定だ。7月29日、30日に開催されるオールスターゲームは、アジアプロ野球チャンピオンシップの出場資格を満たす若手による「中華隊」と、その他の世代のスタープレーヤーによる「明星隊」が2試合を戦う。国際大会をより楽しむ為に、CPBL公式YouTubeのダイジェストなどで、「予習」をしておくのもおすすめだ。
(「パ・リーグ インサイト」駒田英)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)