大学生・吉田正尚が残した“衝撃伝説” ジャンプ捕球のはずが…「こいつは違うわ」
中学硬式「城東ボーイズ」の深田監督は大学時代に吉田の打球を目の当たりに
東京・江東区に拠点を置く中学硬式野球「城東ボーイズ」で監督を務める深田健成さんは大分・明豊高で二塁手、東京国際大で遊撃手として活躍する中で、数多くの強打者の打球を目の当たりにしてきた。
そんな深田さんが「とんでもない打球だった」と振り返るのが、レッドソックスの吉田正尚外野手だ。吉田が在籍していた青山学院大とはリーグが違うため公式戦で顔を合わせることはなかったが、毎年のようにオープン戦で対戦。吉田と同学年だった深田さんは、年を追うごとに凄みを増していく吉田の迫力に圧倒されていった。
「プロに行ったいろんな選手の打球を見てきましたけど、吉田選手の打球が一番でした。ショートを守っていても、三遊間の打球が逃げていくというか、追いつける感覚が全くないんです。1年生から4年生までずっとオープン戦をやりましたけど、『こいつは違うわ』って思いました」
今でも忘れられない打球がある。吉田が放ったライナーが、自分の頭上を襲った時だ。「ショートライナーだと思って、ジャンプしようとしたんですよ」。内野手が捕球できると思えるほどの低弾道は、勢いを失うことなく、そのまま左中間スタンドへと突き刺さったという。
吉田のゴロは「ポーン」ではなく「パーン!」と転がってきた
ショートがジャンプした打球がそのままスタンドに……。かつて“怪童”と呼ばれた中西太さん(西鉄)の伝説を彷彿とさせるエピソードだが、中西さんは右打者で、吉田は左打者。いわば流し打ちの打球でジャンプしかけたところに、吉田の怪物ぶりがうかがえる。
「これはプロの一流の打球だと思いました。セカンドの同級生が、吉田選手の打ったゴロをエラーしたことがあるんですけど、ショートからだと、セカンドゴロってきれいに見えるじゃないですか。普通、ゴロって『ポーン、ポーン、ポーン』ってくるんですけど、吉田選手は『パーン! パーン! パーン!』ってくる。横から見ていても、普通の打球じゃないよねって思うくらい、群を抜いていました」
深田さんの予感通り、吉田は2015年ドラフト1位でオリックスに入団すると、2020年に打率.350、2021年は.339で2年連続首位打者を獲得。今年3月の第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では準決勝のメキシコ戦で貴重な同点3ランを放つなど、大会記録となる13打点を挙げ、野球日本代表「侍ジャパン」を3大会ぶりの世界一へ導くなど、日本を代表する強打者の1人に成長した。
吉田は今季から海を渡り、レッドソックスの中核として活躍を続ける。深田さんは4月に城東ボーイズの監督に就任した。メジャーリーガーと中学硬式チームの監督。立場は変わっても、野球界を思う気持ちに変わりはない。
(内田勝治 / Katsuharu Uchida)