佐々木朗希は「悔しいと思えるほど近くない」 ドラ1候補にあった力の差…感じた侍の重圧

日米大学野球に出場した東洋大・細野晴希【写真:川村虎大】
日米大学野球に出場した東洋大・細野晴希【写真:川村虎大】

日米大学野球で最優秀投手賞に輝いた東洋大・細野晴希

 大会期間中の引きつった表情はすっかり消え、少しだけはにかんだ。「日本に帰ったら米が食べたいです。ピラフみたいなのは食べたんですけど……。やっぱり白米が食べたいですね」。米ノースカロライナ州ケーリーなどで行われた第44回日米大学野球選手権で最優秀投手賞に輝いた細野晴希投手(東洋大)は優勝の喜びだけでなく、悔しさも同時に日本に持ち帰ってきた。

 開き直った投球が功をなした。7月12日(日本時間13日)、2勝2敗で迎えた第5戦。大久保哲也監督(九産大)が送り込んだのは2登板で防御率40.50と苦しんでいた細野だった。「不安が結構勝っていて。楽しみとかはそんなになかった」という初先発だったが、6回途中まで3安打2失点(自責1)。みごと試合を作り、2007年以来史上2度目となる日本代表の“敵地優勝”に貢献した。自身も最優秀投手賞を獲得した。

「あまりいい投球が続かなくて、悪いイメージがあったんですけど。あのピッチングしたらあれ以上悪くならないなと思って。結構吹っ切れて投げることができました」

 ほろ苦い“侍デビュー”だった。7月8日(同9日)の第2戦、2番手で登板した細野はわずか1死しか奪えず3失点。結果以上に、自身の直球が通用しなかったのが悔しかった。「初見であれだけ打たれたのは初めて」。同日の試合後、重い口を開いた。帰りのバスに乗る際は「あー、もう!」。感情をむき出しにする場面もあった。

 それでも今春の東都大学2部リーグでは5勝負けなし、防御率0.84と圧倒的な成績を残した左腕。大久保監督の信頼は揺るがなかった。大会が始まる前から計画していた先発・細野を第5戦に持ってきた。初回は1死一、二塁から2つの暴投で先制点を献上。ただ、その不安定な立ち上がりで細野の“肩の荷”が下りた。

「2回から軽く投げていたというか。日本と同じ投げ方でも真っすぐで押せていた感じだったので。軽く投げたことがいい方向につながったんじゃなかなと思います。前からずっと思っていたんですが、軽く投げる勇気が出なくて、怖くて。1回打たれたのでもういいかなと自分で変えました」。そこからは強力米国打線を寄せ付けなかった。2回から5回まで許した安打はわずか1本。6回に四球と安打で1死一、二塁のピンチを作り降板したが、「70~80点くらいじゃないですかね」とうなずいた。

最優秀投手賞に輝いた細野晴希【写真:川村虎大】
最優秀投手賞に輝いた細野晴希【写真:川村虎大】

同学年の佐々木朗希らがWBCで世界一に「すごいプレッシャーはありました」

 東亜学園高(東東京)時代は1年夏からマウンドに上がったが、最後の夏は2回戦で敗退。当時から活躍していた同学年の佐々木朗希投手(ロッテ)、宮城大弥投手(オリックス)は3月に行われた第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で決勝でマイク・トラウト外野手(エンゼルス)率いる米国代表を下し、世界一に輝いた。同じ米国で、同じユニホーム。「重圧というか。限られた人しかここには立てない。すごいプレッシャーはありました」。大会が終わった今だからこそ、吐き出せた。

 高校時代には背負えなかった日の丸を背負い、今秋のドラフトでは上位指名が有力視されている。同じプロの舞台に足を踏み入れる可能性は高そうだが、まだ、佐々木朗、宮城ら同学年との差は大きいと思っている。「悔しいと思えるほど差が近くないというか。遠い存在。今はいい刺激になっている。憧れになっている」と本音も漏らす。

 アメリカとの対戦でも、同じような感情が芽生えた。「やる前はちょっと考えていた」というメジャーへの挑戦。大会が終わってみると「まだ、自分の力のなさを感じたというか。2戦目も結構真っ直ぐで力勝負していったんですけど、初見で普通に捉えられていたので。まずはしっかり鍛えてから挑戦したいなと思いました」。壁は高かった。

 今年は10月26日にドラフト会議が行われる。トップチームで再び日の丸を背負うには、プロからの指名を受けるのが第一条件。「まずはきっちりリーグ戦を戦って。そこからプロを目指して。佐々木朗希投手らに負けないように頑張りたい」。今大会の経験は、次のステージでも必ず生きてくるはずだ。

著者プロフィール
○川村虎大(かわむら・こだい)1998年2月、茨城・土浦市出身。土浦一高から早大に進学。早大では軟式庭球部に所属するかたわら、ソフトテニス専門誌に寄稿。2021年からFull-Countに所属し、2023年から侍ジャパン、エンゼルスを中心に取材している。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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