憧れの舞台は「あっという間」 甲子園の苦い記憶…侍U-15監督が説く“予習”の重要性

アジア選手権で準優勝した「侍ジャパン」U-15代表【写真:Getty Images】
アジア選手権で準優勝した「侍ジャパン」U-15代表【写真:Getty Images】

アジア選手権で準優勝…侍U-15代表を率いた今山和之監督

 8月20日から26日まで中国・威海市で開催された「第11回 BFA U15アジア選手権」。野球日本代表「侍ジャパン」U-15代表を準優勝に導いた今山和之監督は「日頃から中学生に対して、学校生活でも野球でもどんどん積極的に行動して、自分から進んで学ぶよう伝えている」と言う。そこで「大人も言うだけではなく、見本になるよう行動しないと」と思い立ち、代表監督の公募にエントリーした行動派でもある。そんな指揮官は大会前、自身の経験にも触れながら「予習」の大切さについて語っていた。

 現在、宇都宮ポニーベースボールクラブで総監督を務める今山監督は高校時代、奈良・智弁学園で白球を追った。野球部の同期は30人以上いるという大所帯で切磋琢磨し、1年と3年時の2度、夏の甲子園に出場。憧れの舞台に立った当時をこう振り返る。

「緊張と独特の雰囲気で、あっという間に終わってしまった感じです。せっかく甲子園という舞台だったのに、気が付いたら7回、8回だった。ベスト8、ベスト4まで勝ち上がれればいいですけど、3年生の時は1回戦で負けてしまった。なんだかもったいないことをしたなと。そういう想いがあるからこそ、予習することが大事だと思うんです。時間は大切にしたいですから」

 今回のアジア選手権で戦うにあたり、今山監督は18人の代表メンバーに意識するべきことを予習させることにした。初めて袖を通す侍ジャパンのユニホーム。慣れない海外遠征で、海外のチームと対戦する。「ややもすると、慣れる頃には大会が終わっていると思うんです」と言葉を続ける。

「漠然として試合に臨むのはもったいない。だから、選手にはそれぞれが思うスポーツマンシップを、自分なりに実践するよう伝えます。そうすることで何か得ることがあると思うので。体験、経験をしてほしいし、学んでほしいですね。本当に貴重な時間を経験できるわけですから、野球はもちろん、それ以外のところでも学びを持ってほしい。選手自身が意識したいところもあるでしょうから、合宿で意識するべきことを予習させ、植え付けておきながら、大会期間中に色々な気付きをもってほしいと思います」

「侍ジャパン」U-15代表を率いた今山和之監督【写真:Getty Images】
「侍ジャパン」U-15代表を率いた今山和之監督【写真:Getty Images】

「愉しさ」を味わうために必要な予習&復習

 大会を通じて、選手たちは勝利の喜びを味わった一方、思い通りのプレーができずに悔しさも味わった。代表メンバーとして過ごした濃密な日々は楽しいばかりではなく、つらく厳しい一面もあったかもしれない。だが、今山監督は「それが本当の学習であり、鍛錬であり、教育だと思うんです」と話す。

「『たのしい』という漢字は『楽しい』ではなく、『愉しい』であるべきだと思うんです。自分が考えた通りに物事が起きると、素直によっしゃ!と思える。それが愉しさなんですよね。その愉しさを味わうためには、やはり予習、そして復習が大切になります。それは大人も一緒。指導者になっても予習、復習が大事ですから」

 プレーボールの声が掛かる時、監督の頭の中には何十通り、何百通りという試合展開のパターンが想定される。想定の範疇で試合が進むこともあれば、想定外の展開になることも。そうなった時、慌てず焦らず次の一手を導き出すためには、やはり予習がカギとなる。「将棋と一緒ですね」と今山監督は言う。

 惜しくも優勝には届かなかったものの、侍ジャパンU-15代表が8月15日に集合して以降、12日間で得た経験は選手たちにとってかけがえのないものとなったに違いない。予習を通じて、より色濃く刻まれた貴重な時間を糧に、それぞれのチームに戻る18人はさらなる高みを目指して羽ばたくはずだ。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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