宮城の涙に見た“強さの要因” OB右腕が分析する激闘…由伸流出でも秘める可能性
元オリックスの鈴木優氏が綴る日本シリーズでの古巣の戦い
オリックスと巨人で投手としてプレーし、2022年限りで現役を退いた鈴木優さんは現在、米国に約2年の予定で留学中だ。現地で感じた“ベースボール事情”を、不定期でレポートしてもらっているが、今回は特別編として、阪神と第7戦に及ぶ激闘を演じた「SMBC日本シリーズ2023」でのオリックスの戦いぶりを振り返ってもらった。
◇◇◇◇◇◇◇
最終戦まで本当に見応えのあるシリーズだった。
第7戦まで優勝は決まらず第6戦までの総得点は同じ、関西同士の対決ということもあり例年以上の盛り上がりとなった。第6戦にメジャー行きが有力視される絶対的エース山本由伸投手が、奪三振数の日本シリーズ記録をつくる好投で勝利。そして最終戦は来季から山本投手の穴を埋めるエースとして、チームを引っ張っていく若き左のエース宮城大弥投手が登板した。
序盤から気合いの入ったピッチングを披露し、得点が入る予感がしないくらいの完璧な内容だった。そして4回1死から森下翔太外野手のヒット、大山悠輔内野手に2ストライクを2球で追い込んでからのインコース厳しい球が死球となり、一、二塁のピンチを迎えることになる。
ここからが大きなポイントだった。
シェルドン・ノイジー外野手に対して初球を外角、2球目を内角のストレートで追い込み、その後落ち球を投げるが見逃され、1ボール2ストライクからのチェンジアップだった。バッテリーとしては外角に落として空振りを奪いたかったところ。ゲッツー狙いではなく空振り狙いだったのだろう。低めの良い高さに投げたがコースが少し中に入ってしまい、そこをうまくすくわれてホームランになってしまった。
痛恨3ランは「打ったバッターが上手というしかないホームラン」
決して失投ではない。強いていえば打ったバッターが上手というしかないホームランだったが、結果として優勝決定戦としては痛い3点が入ってしまった。再三になるが本当にそこまで完璧な内容だっただけに、その1球にやられた形だった。
敗戦後の宮城の涙からも、この1イニングの後悔の念が痛いほどわかる。なかなかシーズンを戦って涙を流すほど悔しい経験をするということはないし、この涙はそれほどプレッシャーのかかる場面で投げている証拠であろう。以前より「チームを引っ張っていかなくてはいけない」という覚悟のコメントを目にしていたが、この日の大きな経験がより彼を日本のエースへと進化させるものになったと思う。
オリックスは今シーズン、絶対的な存在だった吉田正尚外野手のメジャー移籍で、打撃面で不安がある幕開けだった。連覇の厳しさも予感させるなか、新戦力の森友哉捕手や首位打者獲得の頓宮裕真捕手、新人王候補の山下舜平大投手や負けない男・東晃平投手の想定以上の活躍は、“穴埋め”ではなく完全な戦力の上乗せであった。
そして来季は大エースである山本がメジャー移籍。この穴は宮城をはじめ皆で少しずつ埋めるしかない。それができるほどの戦力を抱え、舞洲にダイヤの原石が控えているのが今のオリックスの強みだと思う。
来シーズンは日本一奪還という今年とは違う挑戦者としてのシーズンとなる。厳しい条件を乗り越え、来年の日本シリーズでは宮城の歓喜の涙が見られることを願っている。
(「パ・リーグ インサイト」鈴木優)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)