日本Sで伝説の12連続直球…窮地も「真っ向勝負で」 巨人が獲得した右腕の“男気”
オリックスから巨人にトレード移籍が決まった近藤大亮「投げられる感謝」
全身全霊で腕を振る姿は、新天地でも変わらないはずだ。オリックスに8年間在籍した近藤大亮投手は8日、巨人へのトレード移籍が決まった。正式発表後には「突然のことで、今は驚いております」と球団を通じてコメント。素直な気持ちを言葉にした。
近藤の武器は気迫のこもった直球だろう。昨年10月23日、ヤクルトとの「SMBC日本シリーズ2022」の第2戦(神宮)では“伝説”を生んだ。3-3の延長12回。近藤は8番手で救援マウンドに上がると、投じた12球全て直球で3つのアウトを奪い、引き分けに持ち込んだ。
当時の心境は「自信を持って真っすぐを投げられた記憶があります。あの時は、それで打たれたら仕方ないと割り切っていきました。変化球を投げて(タイミングを)合わせられて打たれるのは嫌だったので、真っ向勝負で」と5時間3分の死闘を振り返った。
全球ストレートの“男気”ある配球選択には「一発を打たれることは、全く考えなかったですね」と強い気持ちで、投球プレートに右足を乗せていた。捕手の伏見寅威と呼吸を合わせた“12球の直球”は「投げられる感謝、恩返しのつもりでしたね。あの日は特に。(リハビリなど)いろんな人に支えてもらって上がれたマウンドだったので。全力を出すだけでした」と、そっと右肘をさすった。
近藤は2015年ドラフト2位でオリックスに入団すると、2017年から3年連続50試合以上に登板。2020年9月には右肘トミー・ジョン手術を受け、リハビリ生活を送ることを前提に同年オフに育成選手として契約。2022年4月に再びの支配下選手登録を勝ち取ると、32試合に登板して1勝4敗、防御率2.10の成績を残した。
今季は12試合の登板で0勝1敗、防御率5.11。オリックス在籍8年間で通算204試合のマウンドで9勝15敗4セーブ71ホールド、防御率3.17をマークした。この日は球団を通じて「(巨人が)野球人として、必要としてくれているということを嬉しく思いますが、8年間在籍し、人間としても成長させてくれたオリックスを離れることを、寂しく思う気持ちも正直あります。新天地で活躍することが恩返しになると思いますし、また新しく認めていただけるように、ジャイアンツの勝利に貢献できるように、必死に腕を振りたいと思います」とコメントした。
山崎颯の愛称「吹田の主婦」も命名した“後輩思い”
3連覇チームの救援陣は選手層が厚く、登板機会に恵まれなかった。今季は2軍で33試合に登板して1勝0敗6セーブ、防御率1.08。戦力になるため、懸命に奮闘を続けてきた。決して腐らなかった。見習うべき先輩が2人いたからだった。
「ああいう人格者になりたいんですよね。背中を追いかけていきたいなと思っています」
真っすぐな視線で近藤がそう話す存在は、変則サイド右腕の比嘉幹貴投手と、今季に日米通算250セーブを達成した守護神の平野佳寿投手だ。「(2人は)安心感があります。かっこいい。ブルペンでも私生活でも、一緒に居てホッとするんです」。ベテランを語る表情は明るかった。
「ブルペン待機の時は僕、緊張して全然喋れないタイプなんで(笑)。途中で足が震えてくることもありますから。練習中は和気あいあいとするタイプですけど、試合となればまた違う。そんな中でも比嘉さん、平野さんが空気を良い感じにしてくれるんです。僕はマウンドに上がったら、後悔しないように。心残りしないように。そういうことを考えて肩を作り始めますね」
試合に入り込むという近藤だが、後輩思いなのは変わらない。爽やかなルックスで全国区に躍り出た山崎颯の愛称「吹田の主婦」は、近藤と“ラオウ”こと杉本が2020年オフに発案した。同学年の2人は「高槻か吹田やな……!」と、衣装購入のために人気量販店のレジに並んだ数分間で命名。吹田の主婦が球団イベントで使用していたバンダナは、機転を利かせた近藤が、大阪の実家から持ち込んだものだった。
トレード移籍に伴い、背番号は「20」から「30」に変更となる。今春キャンプでブルペン投球を終えた直後、確かな手応えを感じていた。「打者目線で、打ちづらい真っすぐを目指しています。低めを狙って(スピンで)高めに吹き上がる球を。それでポップフライを取れたら、僕の場合は状態が良いと感じます」。ユニホームの色が変わっても、理想像は変わらない。
この日は大阪・舞洲の球団施設で来季に向けて練習を行っていた。前日7日には、入院と左足首手術を控えた杉本を訪ね、熱い抱擁を交わした。1秒も惜しまない右腕は、日々早朝からトレーニング始め鍛錬を積む。「少しでも不安があれば、それを取り除きたいんです」。流した汗と堪えた涙の意味を、新天地で証明してみせる。
(真柴健 / Ken Mashiba)