日本S初日にまさかの戦力外… 感謝の挨拶も「邪魔になる」滞在1時間の“気遣い”
阪神、オリックスで活躍した竹安大知「心のどこかでホッとしてしまったんです」
決戦当日にまさかの通達も、胸中はスッキリした。オリックスの竹安大知投手は、阪神との「SMBC日本シリーズ2023」の第1戦が行われた10月28日、戦力外通告を受けた。「正直、少し予想はしていました。(前日に)電話が鳴って、心のどこかでホッとしてしまったんですよね。その感情が出たということは、もう違うんだな……と感じました」。その場で引退を決めた。29歳右腕は阪神で3年、オリックスで5年の計8年間を過ごしたプロ野球生活に幕を下ろした。
引き際が美しい決断だった。「最後までやり遂げる姿勢を貫いて(野球を)辞めたかったんです。(怪我などもあり)来年、もし続けさせてもらえるとなった時に、思い切りできる気がしなくなってしまったんです」。3度の右肘手術を経験し、すでに体はボロボロだった。
午前中に大阪・舞洲の球団施設で球団幹部から通達を受けると「その日のうちに、お世話になったみんなに挨拶がしたかった」と京セラドームに車を走らせた。移動する途中、橋を渡る運転席で一瞬、海の向こうを見つめた。竹安の胸中は清々しくなった。
「その瞬間までは自分の現役生活をどうするのかを考えていたにも関わらず、安心してしまったんです。ということは、もうここで終わりなんだなと。これは引退だなと感じました」。次の仕事は決めていない。現役生活を終え、新しい世界に飛び込む覚悟を決めた。
京セラドームの地下駐車場に到着すると、すぐに車を降りた。「日本シリーズ前に、できるだけ邪魔をしたくなかったんです」。スーツ姿で関係各所に挨拶へ向かうと、1時間ほどで球場を後にした。熱戦を控えるナインへ“無言の気遣い”だった。
戦力外→引退決断に「僕の人生は、まだまだ続いていく」
ユニホームは、もう着ない。ピシッとネクタイを締め、背筋を伸ばす竹安を見た仲間たちは、驚きの顔だったという。「球団発表もまだ(のタイミング)だったんです。ニュースにもなっていなかったので、みんなは(戦力外を)聞いてなかったみたいで『え?』って感じでした」。革靴の音がコツンコツンと寂しく鳴る。帰路に就くため、地下への階段を降りる背中には「21」がうっすらと映った。
「挨拶をして、握手をする度に『次、どうするの?』と聞いてくれました。僕は本当に辞めることしか考えていなかったので『野球、辞めます。引退します』としか言えませんでした」
通達された「戦力外」から、すぐに決断した「引退」。もう1回、あがくこともできたが「自分の好きな生き方じゃないな」と直感を信じた。「この世界に入って、戦力外や引退になる選手をたくさん見させてもらった。そこで、最後までトレーニングをし続ける選手を見て凄いな……って思ったんです。こういうタイミングで人間性が出る。自分も(野球生活が)終わる時は、こういう生き方をしたいと思っていました」。
竹安は2015年にドラフト3位で阪神に入団し、2018年オフに西勇輝投手の人的補償でオリックスに移籍。プロ通算8年間で40試合に登板し、10勝6敗、防御率4.29の成績を残した。
29歳まで力強く握った白球を、そっと置いた。「プロ野球人生は終わりますけど、僕の人生はまだまだ続いていく。『生き方』が大切なんだなと学ばせてもらったのが、プロの世界でした」。新たな景色を追い求め、108つの縫い目に別れを告げた。