68歳江川卓氏「届かなくても」 原辰徳氏の提案を“拒否”…18.44mへのこだわり
江川氏はジャイアンツ女子を相手に打者1人、3球を投げて降板
巨人の「第1回ジャイアンツ祭り レジェンドOBvsジャイアンツ女子チーム」が12日に静岡草薙球場で行われ、レジェンドOBは1-8で敗れた。先発した江川卓氏はわずか打者1人、3球で降板したが、その中でも「怪物」と呼ばれた男ならではのプライドをうかがわせた。
江川氏はいまや伝説上の名投手である。右肩を痛めてプロ生活はわずか9年、通算135勝に終わったが、それでもMVP1回、最多勝2回、最多奪三振3回、最優秀防御率1回など数々のタイトルを獲得。1984年のオールスターで奪った8者連続三振は今も語り草だ。栃木・作新学院高時代から「怪物」の異名を取った剛速球投手で、球界に残した印象は強烈だった。
とはいえ、肩を痛めて引退した経緯もあり、68歳になった現在の江川氏に剛速球を求めるのは酷。初回、ジャイアンツ女子の先頭・田中美羽外野手に対し、初球は山なりで高めに外れボール。2球目は逆にワンバウンドでボールになった。
これを見た三塁手の原辰徳前監督はマウンドに駆け寄り、「もっと前から投げたら?」とばかりに、プレートの前方に足で線を引いて見せた。江川氏と3歳下の原前監督は大学日本代表、巨人で同じユニホームを着た盟友。気の置けない仲だからこそのやり取りではあった。
しかし、江川氏はキッパリ拒んだ。「『前から投げたら?』と言われたのですが、前からは投げられません。届かなくても、正規のマウンドからやりたい。球は行ってないですけれど、気持ちだけはありました」。野球規則でバッテリー間は18.44メートルと定められている。それだけは生涯破るわけにいかないというわけだ。
阿部監督の「困ったらど真ん中へ投げろ」に共感
結局、3球目も高めのボール球だったが、田中が打って出て二ゴロ。これで降板した江川氏は「あれで精一杯。2球目がワンバウンドした時にはドキッとしました。届かないと思ったのですが、打っていただいたので本当に感謝しております」と頭を下げた。たかが3球、されど3球。往時を知るファンにとっては、胸がいっぱいになるような雄姿だった。
一方で江川氏は巨人OBの1人として、秋季キャンプ中の宮崎から挨拶に駆けつけた阿部慎之助監督を激励。新指揮官について「報道を拝見していると、『困ったら、ど真ん中へ投げろ』という言葉がしょっちゅう聞かれる。たぶん、逃げの投球をしないということを中心に采配を執られるのだと思う」と評し、「阪神が四球を選ぶ野球をしているので、それに対抗するには一番いい形だと思います。それを期待しております」と理論的に語った。
今季は阪神が復帰1年目の岡田彰布監督の下で、18年ぶりのリーグ優勝と38年ぶりの日本一を達成。レギュラーシーズンで選んだ四球数がリーグトップの494に上り、昨季の358四球(リーグ3位)から激増した点が話題になった。
巨人はその阪神に今季6勝18敗1分と大きく負け越した。阪神が待球戦術でくるなら、真ん中に投げ込んでやれというわけだ。人一倍強気で鳴らした現役時代の江川氏に、共通する姿勢と言えるかもしれない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)