好投しても反省する今永昇太の“美学” 高い次元で追究の先に…今季封印した言葉

会見を行ったDeNA・今永昇太【写真:田中健】
会見を行ったDeNA・今永昇太【写真:田中健】

会見で米挑戦を正式表明「不安はないわけではないです」

 DeNAの今永昇太投手が13日、横浜スタジアム内で会見を行い、ポスティングシステムを利用してメジャー移籍を目指すことを正式に表明した。プロ入りから8年。日本を代表する左腕に成長を遂げ、夢への扉を開こうとする心境を「不安はないわけではないです。野球だけでなく生活面とか、自分が自分らしくいられるかなとか。それもこれから少しずつ払拭できるようにしたい」と包み隠さず語った。

“らしさ”溢れる30分間だった。会見の冒頭には立ち上がって一礼。最後にも報道陣へ「これからもイチ人間として成長できるように頑張ります。ありがとうございました」と深々頭を下げた。今永を取材していると、感心させられることが本当に多い。その言葉の抱負さ、どんな時も理路整然と話すクレバーさ……。“投げる哲学者”と呼ばれるが実にユーモアに富んでいて、笑いをとることに貪欲だったりもする。

 とはいえ野球に関してはとにかく真面目な今永は今季、「調子」という言葉を使うのをやめた。「今日は調子が良かった」とか「調子はあまり良くなかったんですが粘り強く投げました」というのは、投手からよく聞くフレーズだ。それを使わなくなった理由は、実に明快だった。

「調子が悪いから負けていいというわけではないですし、悪くても勝てるときもあれば、良くても負けるときがある。調子がどうだったかは自分で言う必要もないですし、『だから何?』って言われてしまう部分なのかなと思うので、僕は使いたくないんです」

高い向上心の源は「いつまでたっても野球が好き」

 全ての出来事に言い訳することなく、受け止めて前に進む。そんなマインドは別の言葉にも表れていた。ある日、8回無失点の快投をしたが援護なく勝ち負けはつかず、結局チームは敗れた。今永は文句ないピッチングをした――。周囲はそう見ていたが、本人は違うのだ。

「結果的にチームが負けているので、僕が考えることは『8回投げたから大丈夫』ではなく、その中で攻撃陣にリズムをもってこられたのかとか、あそこの無駄球がどうだったとか、反省点がたくさんあると思います。勝ってしまうとなかなかそこまで目を向けられなくなってしまうので、負けたときに改めて学ぶべき点がたくさんある。そうしないといけないと、僕自身思っています」

 チームを勝たせられなかった責任を考え、好投しても反省する。これはおそらく、簡単なことではない。でもこのマインドを持ち続けているから、今永は日本球界最高レベルの左腕にまで上り詰めたのだろう。

 3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では決勝の先発を任され、その存在を知らしめた。今季は今永の登板試合にはメジャー球団のスカウト陣が大挙した。実力が認められたことは明白だった。それでも今永はいつも、高みだけを見据えていた。この日も「いつまでたっても野球が好きですし、努力を努力と思わずに突き進めたらなと思っています」と向上心をのぞかせた。

 2015年ドラフト1位で駒大から入団。2019年には自己最多の13勝を挙げたが、2020年には右肩の手術も経験した。紆余曲折あったNPBでの8年間を経て、30歳で大きな決断を下した。「どこにいたとしても、僕という人間は変わらないので。それを信じてくれる人たちに恩返しができるように、一生懸命プレーしているところを見てもらいたいなと思います」。世界最高峰の舞台でも、今永らしく自分の道を切り拓くだろう。

(町田利衣 / Rie Machida)

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