GMからの言葉は「全部忘れた」 重苦しい雰囲気…西武の4番候補が“失態”
渡部は山川、中村の離脱をうけ4番抜擢で6本塁打&25打点
今季35試合で4番を務めた西武・渡部健人内野手が1日、所沢市の球団事務所で契約更改交渉に臨み、400万円増の年俸1600万円(金額は推定、以下同)でサインした。176センチ、115キロの巨体とユニークなキャラクターで人気上昇中の長距離砲。プロ3年目にして1軍定着とレギュラー獲得の足がかりをつかんだからこそ、真価を問われる来季が正念場となる。
プロ入り後3度目の契約更改交渉で、初めて“昇給”を勝ち取った渡部だが、「元に戻っただけなので」特に感慨はなし。言われてみればその通りで、2020年のドラフト会議で西武に1位指名を受け桐蔭横浜大から入団した渡部は、最初の条件が契約金1億円プラス出来払い、年俸1600万円だった。
1年目のオフの契約更改では現状維持。昨年は1軍出場なしで、400万円減の1200万円となっていた。今回は昨年のダウンを挽回し、文字通り振り出しに戻った。勝負はこれからなのだ。
今季は開幕2軍スタートだったが、1軍では山川穂高内野手が不祥事、本塁打王6回の実績を持つ中村剛也内野手は脇腹を痛めて登録抹消。大砲2人が離脱したことで、渡部にチャンスが回ってきた。5月27日のオリックス戦で今季1軍初昇格すると、即スタメン4番に抜擢された。以降26試合に出場し、打率.275、4本塁打、14打点の打棒を振るったまではよかったが、7月1日のソフトバンク戦で走塁中に左脚の内転筋を痛め、翌2日に出場選手登録抹消。1軍復帰まで約1か月半を要してしまった。
渡部自身によると、怪我から復帰後も離脱前の好調な打撃は戻らず。今季トータルで57試合出場、打率.214、6本塁打、25打点に終わり「怪我というのはよくないと、改めて思いました」と猛省した。
渡辺GM「野手陣が少しでも上積みすればチャンスがある」
一方、渡辺久信GMは「渡部はある程度1軍で数字を残したけれど、まだまだ発展途上の選手」と評しつつ、「野手陣が少しでも上積みして投手陣を助ける形をつくれれば、来季のチームにはチャンスがある」とボルテージを上げる。
確かに西武の現状は、2018、19年に強力打線の破壊力でリーグ連覇した頃とは真逆。今季リーグ2位のチーム防御率2.93を誇った投手陣が、同ワーストの435得点に終わった打線をカバーする形だ。今年のドラフトでも、1位指名した即戦力左腕の国学院大・武内夏暉投手をはじめ、指名した7人(育成を除く)中6人が投手。このままでは“投高打低”の傾向がますます強まりそうで、若き4番候補の渡部にかかる打線底上げの期待は大きいわけだ。
渡辺GMは「(契約更改交渉の席上で)彼にもそういう話をしたけれど……覚えていないかもしれないね」と苦笑。実際、契約更改後に会見した渡部は報道陣から「渡辺GMから何か言われましたか?」と聞かれると、「来季しっかりピッチャーを助けられるような……」と口にしたまま絶句し、「忘れちゃったっすね」と“白状”した。渡辺GM、飯田光男球団本部長、武藤幸司査定チーフの3人を相手にする交渉の重苦しい雰囲気が苦手なようで、「空気にやられました。3人いるので圧にやられて、全部忘れたっす」と笑わせた。
思わぬところで“天然”ぶりを披露した渡部だが、この秋から怪我防止のためにウエートトレーニングを増やし、持ち味の打撃でも「今年は1軍で、いけると思って振った球がファウルになることが多かった。一発で仕留められるように確率を上げたい」と課題を自覚している。スケールの大きいスター候補の覚醒が楽しみだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)