笑顔から一転「生きた心地しなかった」 外に出る気力もなし…新婚の妻と祈った着信

オイシックス新潟・中山翔太(右)と愛由美さん【写真:本人提供】
オイシックス新潟・中山翔太(右)と愛由美さん【写真:本人提供】

元ヤクルト・中山翔太は12球団トライアウトに参加もNPBからオファーなし

 もう一度、大舞台でホームランを打つ――。元ヤクルト・中山翔太外野手は、今季からNPB2軍に参入する「オイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ」(以下、新潟)でプレーする。最速でのNPB12球団への復帰を目指し「自分の可能性を感じられるまで続けたい」と、意気込む。

 中山は昨年、独立リーグ・九州アジアリーグ「火の国サラマンダーズ」でプレーした。序盤は環境の変化に戸惑い不振に陥ったが、最終的には72試合に出場し打率.325、6本塁打、53打点。ヤクルト時代の同僚で臨時コーチを務めていた坂口智隆氏の指導もあり、課題だった確実性は改善。出塁率.409の好成績を残した。

「去年は1年勝負と思って独立リーグでプレーしましたが、まだ成長できると感じられた。持ち味の長打力もそうですが、変化球の対応や凡打の内容にもこだわってやってきた。これまでは大きな波がありましたが、そこの修正方法も分かりました」

 自信を持って挑んだ12球団合同トライアウトでは、前DeNAの左腕・笠原祥太郎投手から豪快な一発を放ちアピールに成功。内角低めの直球を振り抜き、打球は切れることなく左翼席に着弾した。チェンジアップなどの“落ちる球”をマークしながら、直球に対応し「完璧に打つことができた。オファーはなかったですが報われました」。1年間の集大成を見せることはできた。

トライアウト後は妻・愛由美さんとスマホの着信を祈る日々

 NPB復帰を目指して目の色を変え、打席やマウンドに向かう“ライバル”たちにも笑顔を振りまく姿が印象的だった。SNSでも中山の表情に注目が集まり「本当に野球を楽しんでいる」などのコメントがあふれた。「ああいう場所では普段通りにやることが一番難しい。僕は2回目なので雰囲気も分かっていた。ガチガチに固くなっても力は出ない」。結果を残せば心から喜び、ベンチでも分け隔てなく話すことで、同じ境遇の仲間たちを鼓舞していた。

 ただ、トライアウト後の1週間は「生きた心地はしなかった」と語る。1日、2日目はまだ余裕もあったが「3日目からは外にも出る気力はなくて。家でテレビを見ても内容は頭に入らない。2年連続でしたが、こればっかりは慣れることはないですね」。妻・愛由美さんとスマホの着信を祈り続けた。

 結果的にNPBからのオファーはなかった。しかし、今季からNPBの2軍「イースタン・リーグ」に所属する新潟でのプレーが決まった。

「去年はどれだけ打っても『独立でしょ?』と思われても仕方ない。2軍ですが、NPBのチームから打てばある程度、証明できるかなと。もう一度、高いレベルで野球ができるのは幸せ」

 厳しい環境の独立リーグで得た経験は無駄にはしない。再びNPBの1軍の舞台で豪快アーチを描くため、新たな挑戦の1年が始まる。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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