“同時戦力外”に涙のハグ「お前もか」 藪恵壹氏を救ったダイビング…ド軍監督の素顔
藪恵壹氏とロバーツ監督は現役時代、ジャイアンツでともにプレーした
阪神やメジャーリーグなどで活躍した藪恵壹氏はジャイアンツ時代、現在ドジャースの監督を務めるデーブ・ロバーツ氏とともにプレーした。2009年の開幕前には、同じ日の同じタイミングに事実上の戦力外(DFA)を告げられ、涙でハグを交わした“盟友”でもある。Full-Countのインタビューで、今季からは大谷翔平投手と山本由伸投手の監督にもなるロバーツ氏の素顔を明かした。
藪氏は2008年、ジャイアンツとマイナー契約を結んで招待選手としてスプリングトレーニングに参加した。そこで出会ったのが、前年に114試合に出場して31盗塁を決めていたロバーツ氏だった。当時35歳とすでにベテランの域だったが「ムードメーカーでリーダーシップのある選手だった」という。
忘れられないシーンがある。オープン戦で、左翼の頭上を越されそうな強烈な当たりを打たれたが、左翼手のロバーツ氏が猛然と追いかけダイビングキャッチの超ファインプレーを見せた。結果を残さないと生き残れない、招待選手の立場だった藪氏は「当然みんな一生懸命やるんですけど、開幕ロースターが決まっているような選手は怪我をしないようにシーズンに備えていく。そんな中でダイビングまでして捕ってくれた。あれがなかったら僕じゃない人が生き残っていたかもしれないし、恩人ですよね」と懐かしんだ。ベンチ前で迎え入れる写真を時折見直しては、感謝の思いを抱いている。
そして2008年の開幕ロースターに滑り込みを果たすと、最初の遠征で選手全員で食事に出掛けた。日本人の母親を持つロバーツ氏が藪氏の隣にやってきたことから仲を深めた。ロバーツ氏にはいたずら好きな一面もあり、アーロン・ローワンドやリッチ・オーリリア、オマー・ビスケルらと若手に“ドッキリ”を仕掛けるなどチームを盛り上げていた。
アップ中に監督室に呼ばれ「予感はしていました。行ったら暗い感じで」
翌2009年はメジャー契約でスプリングトレーニングに参加した藪氏だったが、開幕前の出来事だった。ウオーミングアップ中に呼ばれて監督室へ。アシスタントGMやコーチが並ぶ中、ブルース・ボウチー監督から「このキャンプに参加してくれてありがとう。若手にチャンスを与えてほしい」などと告げられDFAとなった。
「呼ばれた時点で予感はしていましたし、行ったら(雰囲気が)暗い感じで……。大体2人ずつ切られていくんですけど、話を聞いてロッカールームに戻ったらロバーツがいて『お前もか』って。その後は言葉はなかったですけど、泣きながらハグをしました。悲しいですからね、当然。悲しいのを悔しいのと、色んな感情がありました」
48時間のウェーバー期間中は「どこに行くこともなくアパートにいました」と藪氏。一方でロバーツ氏は2日後、現役引退を表明した。「結構早かったので『えー辞めちゃうんだ』って驚きました。でも彼はその年のお金は保証されていただけるので、いいよなっていうのもありましたけど(笑)」。
指導者に転身したロバーツ氏は、2016年にドジャースの監督に就任すると、8年で7度の地区優勝、2020年にはワールドシリーズ制覇と“名将”ぶりを発揮している。絶望の瞬間をともに経験した藪氏にとっても、誇らしい戦友だ。
(町田利衣 / Rie Machida)