主将がキャンプ中に衝撃トレード 涙の胴上げで“送別”も…朝刊は「あの涌井が泣いた」
西武の赤田コーチは主将だった2010年にオリックス阿部とトレードとなった
あれからもう14年が経つ。西武の赤田将吾外野守備走塁コーチは南郷キャンプに来ると思い出す出来事がある。
2010年の春季キャンプ中だった2月18日、西武は韓国球団との練習試合が予定されていた。早出の練習を終え、チーム本隊に合流しようとしていた赤田は、バックネット裏の小部屋へと呼び出された。室内に入ると当時の前田康介球団本部長らフロント数人が待っていた。
「トレードが決まりました」
いきなりの宣告だった。「ついに来たか、という感じでした」。前年の6月、赤田と阪神・藤田太陽投手とのトレード話が一部で報じられた。だが情報が漏れたことが影響したのか、実現しなかったという経緯があった。
「分かりました」。藤田とのトレード報道があった時点で、自身が交換要員に挙がっていることを察してはいたが「ショックでしたね。本当に出されてしまうんだ、と」。そして尋ねた「それで僕はどこに行くんですか」。
しかし前田本部長は前年の情報漏洩の“失敗”もあり「まだそれは言えない」と教えてくれなかった。赤田は食い下がった。「トレード相手が誰かまでは聞かないので、せめて行き先は教えてください」「発表になるまで言えない」「それなら今、僕に伝えてくれた意味がないです」。数回の問答の末に別の職員から「赤田君を信じて伝えてあげましょう」との声もあり、ようやくオリックスに行くことを知らされた。外野手が不足していたという。
発表翌日の新聞の見出しは「あの涌井が泣いた…赤田がトレード」
当日の練習試合は、怪我をしたらオリックスに悪いということから、スタメンを外れた。それでも試合の終盤に渡辺久信監督から出場の意思を問われ「出たいです」。代打で使ってもらうと右翼線へ安打を放った。
試合後、赤田は全選手の前で「トレードになりました」と報告。外野手だったことから右翼の守備位置で胴上げされると涙が止まらなかった。ただ、赤田同様に号泣していたのが、可愛がっていた後輩の涌井秀章投手だった。
マウンド上では冷静沈着、喜怒哀楽を表に出さないタイプが人目を憚らず大粒の涙。当時の赤田はキャプテンで、前年までは選手会長を務めていた。要職にいる選手のキャンプ中のトレードは周囲を驚かせたが、「次の日の新聞は『あの涌井が泣いた……赤田がトレード』みたいに、見出しは涌井の方が大きくて」と笑った。
その夜に送別会が開かれ、全員のサイン入りユニホームをもらった。オリックス移籍後もそのユニホームは額に入れてリビングに飾った。胴上げの写真は現在も玄関に置いているという。
「結果としてオリックスに行って良かったと思います。それまでは自分の球団しか知らなかった。他球団のことも知れたし。知識の幅が広がったかなと。オリックスで出番も増えました。開幕スタメンでも使ってもらいましたから」
ちなみに、赤田のトレード相手となった阿部真宏内野手は2019~2021年まで西武の打撃コーチで“コンビ”を組み、今季は阿部が内野担当、赤田が外野担当の守備走塁コーチとなっている。「不思議な縁ですよね。あまりないんじゃないかな」。涙のトレードも、今では懐かしい思い出だ。
(湯浅大 / Dai Yuasa)