地震の瞬間に走り出した愛猫「メイ」 実家で被災…山崎颯一郎を守った“直観”

オリックス・山崎颯一郎【写真:北野正樹】
オリックス・山崎颯一郎【写真:北野正樹】

オリックス・山崎颯一郎、地震の瞬間に“保護”優先…「後悔するな」

 ふと思えば“猫の恩返し”だったのだろうか。オリックスの山崎颯一郎投手は、今でも考える時があるという。今年の正月、石川県・加賀市の実家に帰省していた山崎は「能登半島地震」に被災した。「家がつぶれると思うほどの揺れだったんですけど、猫のおかげで冷静になれた部分がありました」。元日に石川県を中心に襲った地震に、木造2階建ての実家で遭遇した。

 2階でテレビを見ながら茶トラの雄猫「メイ」と触れ合っていると、突然、メイは動き出し逃げてしまった。「何かあった?」と目で追おうとした瞬間、手にしていた携帯電話から「緊急地震速報」のアラームが鳴り出し、直後に大きな揺れが襲ってきた。

「経験したことのない揺れで『あ、これは崩れるかもしれん』と思ったんです。『逃げなアカンな』って時にメイちゃんのことを思い出して……。1人で逃げた後に家が崩れたら、メイちゃんが下敷きになってしまう。『嫌だな、後悔するな』と思ったんで、メイちゃんを探したんです」

 揺れが続く中で必死に探すと、メイはベッドの下に隠れていた。力任せにベッドを持ち上げて引っ張り出し、1階に降りて揺れが収まるまでゲージに入れて“保護”した。怯える体を撫でて落ち着かせたという。当時の心理状況は「守らなきゃ……」だった。

「メイの動きで、僕も何かの異変を感じました。いきなり緊急地震速報を聞くよりは、わずかですけど、心の準備ができたのかもしれません。逃げようとする時は必死でしたが、メイを連れて逃げなければいけないと考えたことで、パニックにならずに済んだような気がします」

家族で名付けた「メイ」が守ってくれた命

 メイが実家にやって来たのは7年前。2歳上の姉が近くの道で頭を怪我をしている子猫を見つけた。動物病院に運んだが、獣医師からは「もう助かりません」と告げられた。車に轢かれたらしく、仮死状態だった。用事のある姉に代わりに駆け付けた父は、埋葬するためのスコップを取りに自宅へ戻り、引き返したところ子猫は蘇生していた。命の儚さ、命の大切さを同時に教えられ、父は「これも何かの縁」と子猫を引き取り、家族でつけた名前が「命」と書いて「メイ」だった。

「その時、僕はもうオリックスに入団していたので、詳しいいきさつは知らないのですが、何年も後遺症による障がいでうまく歩けなかったと聞きました。今はもう、普通に動くことができています。動物って人間より異変を早く感じるといいますから、僕に知らせてくれたのかもしれません。祖父が建てた古い家なので、本当につぶれると思いました。実際に近くで倒壊した家もありました」。姉や父が「命」を救い、献身的な世話で回復した「メイ」の存在で、冷静な対応ができたことに感謝してやまない。

 石川県内では、寒さの厳しいなかでまだ多くの被災者が不自由な生活を強いられている。被災地の力になる個人的な支援も考えているが、1番は野球で活躍することが恩返し。「僕ができることは、野球で良いプレーをして、良い結果を出して、元気を与えることだと考えています」。チームトップの登板数(53試合)となった昨季同様に、プロ8年目もセットアッパーとしてリーグ4連覇に貢献する。「メイ」も待つ、郷里に明るい話題を届ける。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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