山本由伸でも「不安がある」 米デビュー直前…胸に秘める葛藤と矜持「もう戻ってこない」

19日の練習に参加したドジャース・山本由伸【写真:Getty Images】
19日の練習に参加したドジャース・山本由伸【写真:Getty Images】

ドジャース・山本由伸に生まれた「良い緊張感」

 高鳴る鼓動を、静かに抑えている。ドジャースの山本由伸投手が19日、韓国・高尺スタジアムで行われた練習に参加。メジャー初マウンドとなる21日パドレス戦に向け、調整を施した。

 ドジャーブルーに身を染めた18番が、ドッシリと本番に備える。それでも、少しだけ“抜けた”お茶目な一面も見せるのが、25歳らしい。練習中、右翼フェンス付近でやり投げトレーニングに励んでいると、うまくバランスが合わず、右翼席にまさかの“スタンドイン”。無人の客席に放りこむと、一瞬は点になった目からイタズラな笑顔が弾けた。

 この日はブルペン投球を行わず、キャッチボールなどで状態を確認。登板3日前の18日にはブルペンでおよそ50球を投じる異例の調整を行ったが、コンディションに問題はない様子だった。

 夢見たメジャーの舞台で、また1歩を踏み出す。18日のエキシビジョンマッチ開催直前には、整列した左隣にはムーキー・ベッツ外野手がいた。すると、ベッツが右肩に手を回し、緊張をほぐしてくれた。渡米前、譲り受けたベッツのボブルヘッド人形を自宅に飾るほど“対面”を望んでいたプレーヤーだ。

 縮めていた両肩をグッと開いた。ベッツとの談笑が生んだのは「良い緊張感」だった。デビュー直前、バクバクの胸中に言い聞かせているはずの言葉がある。「不安だと思えているのは、真剣に向き合って取り組めているということ」。オリックス在籍時、何度も大舞台に上がり、活躍を支えてきた“思考”である。

先発投手は「投げられる試合は限られている」

 大谷翔平投手の姿が見えなかった19日、山本はグラウンドでハツラツと動き回った。登板2日前、日本時代ならブルペンで25球ほど投じるのが通例だったが、この日は入らなかった。韓国開催とあり「時差」に苦しまないように考えた対策だろう。

 先発を任される山本は「僕が投げられる試合は限られている」と冷静に話す。「だから、1試合1試合を『絶対に勝つぞ』という気持ちでチームの一員として頑張るんです」。役割は白星に導くことだ。

「ベストな状態でマウンドに上がらないと。(不注意などで)怪我をしてしまったら、もう一生マウンドに立てないかもしれない。僕にも、たくさん不安がある。ただ、大きな目標もある。全てに打ち勝って、みんなと喜べるようにしたい。サボった結果は自分に返ってくるんです。その1日は、もう戻ってきません」

 迷いなく歩んだ道を、泥臭く歩む。華やかに見せて、地道に着実に進んできた。史上初の3年連続沢村賞投手。見たことのない景色にたどり着くまで、日本が、世界が背中を押してくれる。

◯真柴健(ましば・けん)1994年8月、大阪府生まれ。京都産業大学卒業後の2017年に日刊スポーツ新聞社へ入社。3年間の阪神担当を経て、2020年からオリックス担当。オリックス勝利の瞬間に「おりほーツイート」するのが、ちまたで話題に。担当3年間で最下位、リーグ優勝、悲願の日本一を見届け、新聞記者の卒業を決意。2023年2月からFull-Count編集部へ。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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