中嶋聡監督から粋な計らい「沖縄行きたい?」 魔法の一言が生んだ10泊11日の“緊急招集”
オリックス・比屋根彰人ブルペン捕手が10泊11日の“緊急招集”
10泊11日の長期遠征には、とっておきのムードメーカーが“緊急招集”されていた。オリックスの比屋根彰人ブルペン捕手は、主にファームを担当していたが、6日の楽天戦(楽天モバイルパーク)からの5試合で“1軍昇格”を果たしていた。
きっかけは中嶋聡監督からの心遣いにあった。4月のある日、指揮官から突然「沖縄、行きたい?」と声を掛けられた。5月14、15日は那覇でのロッテ戦。沖縄県出身の比屋根は「行きたいです!」と即答した。
まさかの一言に胸を弾ませたが、指揮官からの返事は「わかった。じゃあ、お金を払って自腹で行ってらっしゃい(笑)」と“ツンデレ”だったため、比屋根は「えええ……!」と苦笑いするしかなかった。
そんな会話をした数日後、チームマネジャーから連絡が入り、比屋根は6日から15日までの仙台、秋田、宮崎、鹿児島、沖縄の10泊11日で1軍帯同が決定した。指揮官が球団に“お願い”をして、期間限定で比屋根を1軍昇格。入れ替わる形で杉本尚文ブルペン捕手を“ファーム視察”に送り込んだ。
1軍合流初日、声出しでベンチに“喝”
比屋根は2017年の育成ドラフト3位でオリックスに入団。長打力が自慢の大型内野手として、プロの扉を開いた。3年間を懸命に過ごしたが、支配下選手登録を勝ち取れず、裏方に転身していた。
「沖縄で野球……。まさか実現するとは思いませんでした。すごく新鮮でしたね。いつもは年末年始しか帰省しないですし、その時期なので野球をする感覚がなかったので。選手としては叶いませんでしたけど、地元の球場でユニホームを着ることができて本当にうれしかったです」
数秒間、思いにふけた後は「僕らスタッフのことも気にかけてくれて、すごく親切な監督さんだと思います」と指揮官に向かって、深々と頭を下げた。
充実の期間になった。1軍合流初日の6日楽天戦では「声出し、頼んだ。せっかく、来たんだから!」と指揮官に背中を押され、ベンチ内でチームに“喝”を入れた。「ブルペンキャッチャーの仕事もしっかりしつつ、雰囲気を明るくできるように心掛けていました」。期間中の勝敗こそは1勝3敗1分けだったが、比屋根が生み出した空気は数値では表せない。
18日からはファームに戻る予定で「一生懸命、頑張らせてもらいます!」とこんがりと焼けた肌で笑った。裏方スタッフも間違いなく戦力。1軍も2軍も関係ない。チーム一丸で、誰もが勝利に邁進する。
○真柴健(ましば・けん)1994年8月、大阪府生まれ。京都産業大学卒業後の2017年に日刊スポーツ新聞社へ入社。3年間の阪神担当を経て、2020年からオリックス担当。オリックス勝利の瞬間に「おりほーツイート」するのが、ちまたで話題に。担当3年間で最下位、リーグ優勝、悲願の日本一を見届け、新聞記者を卒業。2023年からFull-Count編集部へ。
(真柴健 / Ken Mashiba)