捨てた“過去の自分” 宇田川優希が取り入れた「新たな思考」…逃れた悪循環
オリックス・宇田川優希が取り入れた「新たな思考」
あえて高い理想を掲げず、今の自分を受け入れる。オリックスの宇田川優希投手が、自らを追い込まない「新たな思考」で復活の道を歩んでいる。
「やっと自分らしさというか。真っすぐもしっかりと投げられるようになって(打者と)勝負ができるようになりました。2年前と比べたら程遠い感じはしますが、今できる自分の投球をするだけだと考えたら(気持ちが)超、楽になりました」
表情に明るさが戻ったのは、8月半ば。大阪・舞洲の球団施設でのことだった。宇田川は仙台大から2020年の育成ドラフト3位でオリックスに入団。プロ2年目の2022年、球威ある直球と鋭い落差のフォークで台頭して支配下選手登録されると、日本シリーズで4試合に登板するなどチームの26年ぶりの日本一に貢献。2023年にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表にも選出された。
「オフに体を作って、2年目の時のように打者を圧倒するピッチングがしたい」とさらなる飛躍を誓って臨んだ今季だったが、右肩のコンディション不良でスロー調整に。4月21日に今季初めて1軍昇格。しかし、本来の調子には遠く、5月15日のロッテ戦(那覇)で打者3人に2四球を与えるなどした後に出場選手登録を抹消され、2軍で調整を進めてきた。
再び1軍登録されたのは、8月24日。「とにかく抑えないといけないとか、四球を出したらダメだとか、そういうことしか考えていなくて。逃げて四球を出して(ストライクを)入れに行ったのを打たれたりすることが、ずっと続いていました」。ファームでも精彩を欠く日々が続き、復帰が遅れた。
「よかった時の自分を求め過ぎていたんです」
悪循環から逃れることができたのは、8月に入ってからだった。きっかけは、ブルペンやマウンドでの成功体験ではなく、トレーニング担当の鈴川勝也トレーナーの一言だった。「フォームのことばかりを考えるのではなく、走ることに力を入れたら自然にフォームを気にせず投げられるようになるよ」。ピッチングのことばかりを考え過ぎる自分がいた。
「試合に投げられない時期や、投げ始めた頃は、よかった時の自分を求め過ぎていたんです。『こんなのじゃなかった……』みたいなことをずっと繰り返していました。例えば、150キロを出したりフォークを決めたりしても『あの時はもっと出ていた』『もっと速いフォークだったのに』と。でも、今、このくらいしか出ないのなら、この球速をコンスタントに出せばいいんだと考えたら、楽になったんです」
過去の自分と決別することができた。「今は今、前は前、という感じです。もっといいピッチングをしたいと思い過ぎて、理想が高くなっていました。もう理想を高くしないで、ただ今の自分ができることをやろうと思っています。ファームにいた時も1軍の試合は気になっていました。ほんとに1点差の試合が多くて『こういう場面で投げたい』とずっと思っていました。チャンスをもらったので、勝利に貢献したいです」。残り試合は少ないが、剛腕で打者をねじ伏せ、チームに貴重な勝利をもたらせるつもりだ。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)