突然引退に衝撃「嘘ですよね?」 田嶋大樹、41歳比嘉に感謝…導かれた「居場所」
オリックス・田嶋大樹、引退の比嘉幹貴は「僕の居場所を作って下さった方」
偉大な先輩の心遣いが、改めて身に染みた。オリックスの田嶋大樹投手が、今季限りでの現役引退を表明した比嘉幹貴投手を「僕の居場所を作って下さった方」と感謝の言葉で表現した。
球団から比嘉の引退が発表された9月15日の本拠地・ソフトバンク戦。全体練習のウォーミングアップが終わり、田嶋が比嘉のもとに駆け寄り握手を求め、少しだけ言葉を交わした。「お疲れさまでした。ありがとうございました、と伝えました」。比嘉からも「ありがとう」と返ってきた。
比嘉の引退は、直前に知ったばかりだった。「ネットニュースは全く見ないので、練習の時に比嘉さんが来ると聞いて『体は大丈夫かな?』と思っていたら、引退されると教えてもらって知りました」。すぐさま練習中に掛け寄ったのは、比嘉に対する特別な思いがあったからだった。
「何回か食事に誘ってもらって。僕の居場所を作ってもらったというか、いろいろ話をしていただいてお世話になりました」。アルコールを嗜まない田嶋はノンアルコールの飲料をチョイスすることで、その場の雰囲気を壊したくないという思いから、酒席の誘いを断り、外食も同期の中川圭太内野手らと行く程度だった。
「騒ぐっていうこともあんまり好きじゃないし、僕に合わないような気もしてお酒の席は行かないようにしていたんです。それで僕が全く外食をしない人間だと多分、みんなが思っていたと思うんですが、その中で比嘉さんが気にかけてくださって。比嘉さんは『それでも大丈夫だよ』と」
「得るものというか『こうなりたいな』というものが、やっぱりあります」
最初は昨年の春季キャンプだった。今季はシーズン中も遠征先で焼き肉などに誘ってもらった。一回り以上の年齢差。「同年代の人が話すブランドものや、いい車の話などは僕には全くわからないので、比嘉さんと話せた時間というのはとてもありがたいし、ためになりました。野球の話もしていただきました」。年長者でも、価値観を共有できる人と過ごすのは、田嶋にとって至福の時間だった。
「(引退を)聞いた時には、『嘘ですよね?』みたいな感覚でした。もう1、2年は続けていただけると勝手に思っちゃっていて……。どんどん(自分がチーム内で)上になって、どんどん話をする人がいなくなっちゃって、すごく寂しいというのが本音です」
比嘉は目標でもあった。「得るものというか『こうなりたいな』というものが、やっぱりあります。比嘉さんとか平野(佳寿投手)さんみたいに、誰とでもうまく接する人ってすごいなと思います。そんな大人に将来なれたら(人間的に)ちょっとは成長できるのかなっていうようには思っています。いずれ僕も上の立場になるので、比嘉さんみたいな先輩でいられたらいいなと思います」。今春のキャンプでは、ドラフト3位の東松快征投手(愛知・享栄高)や育成ドラフト1位の寿賀弘都投手(香川・英明高)らと笑顔で会話する場面が何度も見られた。
「一生懸命、野球に取り組んでいる後輩にはどんどん声を掛けたいし、1年でも長く一緒にプレーをしたいと思っています」。比嘉から受けた“恩”は後輩に還元し、その思いはすでに継承している。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)