勧誘殺到も全て拒否「行く高校がない」　元HR王の強い意思…開花しすぎた別の才能

山崎武司氏は中学時代、野球では無名…相撲と陸上で全国大会に出場

　中日、オリックス、楽天の3球団でプレーした山崎武司氏（野球評論家）は1984年に愛工大名電高に進学し、プロ注目の選手になったが、愛知・知多市立八幡中学の軟式野球部時代には全く結果を残せなかった。「野球で誘ってきた高校はひとつもなかった」という。中学時代にかり出されて結果を出した陸上では10校以上から声がかかり、大相撲の5部屋以上の相撲部屋からもスカウトされたが、それらをすべて断り、敢えて中学で実績ゼロの野球の道を選択。その理由は単純明快だった。

　山崎氏は八幡中学軟式野球部時代について「練習もそんなにやらなかったし、弱かった」と話す。捕手を務め、主砲だったが「中学の時にホームランを打ったことはなかった。（1983年の）中3最後の夏の大会は知多半島の郡の大会で1回戦負け。当たれば飛んだし、ボールも人より遠くへ投げられたけど技術がなかった。そんなに教えてもらってもいなかったからね。同級生のピッチャーとは仲が悪かったなぁ。尖っているもの同士だったからね」と苦笑しながら振り返った。

「中学での野球は実績ゼロでした」という山崎氏だが、他のスポーツでは結果を出した。「1回戦負けで野球が終わってすぐに相撲部に誘われた。中学校の相撲大会があって『全国（大会）に行きたいから、お前どうだ』ってね。俺は『やりたくない』って断ったんだけど、元関取の人が指導に来て『焼き肉ご馳走するからやれ』って言われて、焼き肉を食いたいがために2日間くらい稽古して、押し出しとつりだしを教えてもらって、愛知県大会に出た」。

　強さを見せつけた。「団体戦で8戦全勝しちゃったから全国大会に出た。それで相撲部屋も5部屋くらいからスカウトが来たんですよ。お断りしましたけどね」。その後には陸上部でもかり出された。「陸上部の先生に『ボール投げをやってみろ』と誘われてやったら愛知大会で優勝して、全国大会で準優勝。それで陸上も10何校からお誘いを受けましたが、それも全部断りました」。理由は将来の展望に相撲と陸上がなかったからだという。

「あの時の俺の頭の中にはプロ野球選手か、競輪選手になることしかなかった。お金になると思ったから。生計を立てることといったら、その2択しかなかった。自転車も子どもの頃から好きだったのでね」。まず第1は野球。小学生時代にキャッチボールをした父・順市さんに「お前は頑張ればプロ野球選手になれるぞ」と言われて、自分はそうなれると思い込んでもいた。しかし、野球ではどこの高校からも誘われていなかった。

兄のツテで愛工大名電のセレクションへ…柵越え連発で開いた道

「プロ野球選手になるために、甲子園に行って、自分の名前を売ってとか勝手に考えてはいたけど、行く高校がないんだもん。だからどうしようかなぁって思っていたら、やっぱり人生においていろいろ、ついていたんですよね。7つ上の兄貴が名電出身でちょうど教育実習に行っていて、その担当が当時コーチで今の監督の倉野（光生）さんだった。それで兄貴が『ウチの弟が野球やっているんですけど』と話をしてくれて『だったら一回連れてこいや』ってなったんです」

　それがきっかけで道が開いた。「名電にセレクションという形で行ったんです。名電に野球で入れるのは中学の時に優勝したとか精鋭ばかりですけど、その時、俺は思いのほかポンポンとホームランを打ったんですよ。意外と硬式が合っていたんでしょうね。まぁまぁ振る力は持っていたから。軟式はプシューとなっていたけど、硬式はバーンと飛んでいった。それで当時の中村（豪）監督が『獲るぞ』って言ってくれた。半特（待生）で入れてもらえることになったんです」。

　実は山崎氏は東邦のセレクションにも参加したという。「これはウチのお姉の関係なんです。お姉の会社の役員さんが東邦出身で、行ってこいよってなってね。そしたら俺、そこでもバカバカホームランを打っちゃって（当時の東邦監督の）阪口（慶三）さんが『欲しい』って言ってくれたんですが、俺、うぬぼれだから、プロに行くなら名電しかないねーって思って断ったんです。工藤（公康）さんとか、名電からは毎年のようにプロ野球選手が出ていたんでね」。

　山崎氏が愛工大名電の3年間、夏の大会はすべて東邦に阻まれる結果にはなるのだが、それはまた別の話。小学生時代から「プロ野球選手になる」と思い込み、中学時代、野球で無名の存在から運良く名電へのチャレンジのチャンスを得て、きっちりアピールして、それを逃さなかったのはすごいとしか言いようがない。そして、高校で実力は開花していく。

（山口真司 / Shinji Yamaguchi）