10年の愛着が示した“ケジメ” 小田裕也「綺麗に終われる」…爽やかに貫いた信念

オリックス・小田裕也【写真:北野正樹】
オリックス・小田裕也【写真:北野正樹】

現役引退のオリックス・小田裕也「みんなと一緒にやれるのも最後」

 葛藤を誰にも見せることなく、静かにバットを置いた。今季限りでの現役引退を表明したオリックス・小田裕也外野手は、7月中旬以降に1軍へ上がれず戦力になれなかったことで、自分の役割の終焉を悟った。

「愛着もありましたし、いいタイミングなのかなと。言い方がおかしいかもしれませんが、ここで辞めた方が綺麗に終われるというか。僕としてはオリックスに拾ってもらったんで、収まりよく終われるという思いがありました」。いつも以上に声のトーンを抑え、現役引退への思いを語った。

 小田は熊本県出身。九州学院高、東洋大、日本生命から2014年ドラフト8位でオリックスに入団した。俊足好打、堅守の外野手として活躍。2021年は代打や代走、守備固めのスペシャリストとして自己最多の101試合に出場。11月12日に行われたロッテとのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第3戦では、2-3とリードされた9回無死一、二塁で日本シリーズ進出を決める同点の“サヨナラバスター”を決めるなど、記憶に残る選手だった。

 2023年は序盤に打率4割をマークするなどスタメン起用され、リーグ3連覇に貢献した。10年目の今季は、7月14日に1軍選手登録を抹消された後は2軍暮らしが続いた。上体に力を入れない“脱力打法”を取り入れると8月中旬から打撃が向上。先発出場した10試合で27打数13安打、1本塁打、9打点。打率.481と気を吐いたが、1軍昇格は叶わなかった。

「その頃からですね、引き際を考え始めたのは。安達さんもTさんも、比嘉さんも、薄々そういう雰囲気を出してきて、ちょこちょこそういう話もしていたんで。もういいのかなと思い、考えなくなってからバッティングの状態がよくなりましたね。引き際っていうとかっこよく聞こえますが、1軍に呼ばれなかったのは大きいですね。役割的に呼ばれるかなと思っていた時期に呼ばれなかったこともあったんで、そういうのを悟ってというか」

 実力本位のプロの世界。しかし、チーム事情やチームの育成方針もあり、数字だけが判断材料でないのは理解はしている。それでも、チームの役に立ちたい思いを果たせないもどかしさが、日々、募っていったのは想像に難くない。

 引退発表があった9月16日はスーツ姿で2軍の本拠地、舞洲を訪れた後、京セラドームで選手やスタッフに挨拶し、比嘉の最後の登板を見届けた。17日からは再びユニホームを着て、全体練習に参加している。「(練習を)やんなくてもいいんですけど、みんなと一緒にやれるのも最後なんで。来れる日は極力やり切ろうという話は先輩たちと話をしています。何かしら(後輩選手に)感じてもらいたいというのはあります」。22日に行われるファームの中日戦(シティ信金スタジアム)で、プロの矜持を示す。オリックスへの愛着を、最後まで貫く。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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