試合後に見せていた“神対応” 50歳イチローが示し続ける道筋「ボロボロになるまで」
4年連続で完投したイチロー氏…選手に与えるまたとない経験
まだまだこれからも、憧れの存在であり続ける。イチロー氏は23日、東京ドームで行われた高校野球女子選抜との一戦に「イチロー選抜 KOBE CHIBEN」の「1番・投手」で出場。141球3失点で完投し、17-3で勝利した。初回に3失点したものの、以降はスコアボードにゼロを並べた。10月に51歳で迎えるイチロー氏は「ボロボロになるまでやりたいと改めて思った」と、来年以降の試合にも強い意欲を示した。
東京ドームの内野席はほぼ満席。2万8483人のファンの視線が1点に集まった。球界のレジェンド、イチロー氏が打席に入ると、観客は揃ってスマートフォンのカメラを構えた。打っては4安打、投げては最速137キロという、50歳とは思えない投球と打球にファンが酔いしれた。
この試合は野球の裾野を広げたいというイチロー氏の思いもあり、「高校野球女子選抜強化プログラム」の一環で2021年から行われ、今回で4度目。イチロー氏は一切手を抜くことなく、女子選手たちを抑え込んでいく。それでも、凡退した女子選手たちは笑顔。日米通算4367安打を放ったイチローと対戦できたことは、一生の思い出になるからだ。
対戦を喜んだ女子選手のコメントを聞いたイチロー氏は、「あいつから打って当たり前だと言われたら、これ(この試合は)できないので、それをキープしたいですね。対戦したことを自慢できる、その状態は凄く望ましい。嬉しいですね」と話す。イチロー氏が本気で向かってきてくれるからこそ、打った選手の喜びもひとしおなのだ。
野球をプレーする人だけでなく、ファンへの思いも忘れない。グラウンドでのインタビューでは「この試合は、皆さんでこの空気を作っていただいている。誰が欠けてもこの空気はできない。感動していました」と感謝を述べた。写真撮影などが終わると、一塁の客席へ足を運んで約10分間サイン。それが終わると今度は三塁側へと移動して、またペンを走らせていた。
試合は松井秀喜氏がダメ押し3ランを放ち、その余韻が残る中でゲームセットとなった。イチロー氏は最後まで戦った女子選手たちに改めて敬意を示し「こんな気持ちのいい試合って、誰も嫌な気にならない。だけど真剣勝負というゲームを僕は知らない。ボロボロになるまでやりたいと改めて思った」と感慨深げに話した。野球を愛するファンを大切にし、選手たちにはこれ以上ない貴重な経験を与える。引退してからはや5年、これからも“イチローにしかできない”役割を果たしていく。
(上野明洸 / Akihiro Ueno)