「マジですか?」「マジです」 鳴ってしまった電話…21歳の戦力外、感じた父の落胆

ソフトバンク・瀧本将生【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・瀧本将生【写真:上杉あずさ】

ソフトバンクから戦力外通告受けた瀧本将生…地元千葉でのトライアウトに意欲

“恐怖の日々”を過ごす中で、拠りどころになっていた思いだった。「今日も来んなよ」――。10月6日、祈りは届かず、とうとう電話は鳴った。「あ、マジか。そういうことか……」。通話ボタンを押す前に、全てを悟った。普段からよく会話を交わす球団スタッフから告げられた戦力外。「マジですか?」。最後の望みをかけた問いかけに、返ってきた言葉は「マジです」。急に現実を突きつけられた。

 翌7日、ソフトバンクの育成3年目、21歳の瀧本将生投手は来季の選手契約を結ばない旨を通達された。千葉の市立松戸高から2021年育成ドラフト11位で入団した右腕。同校出身の選手としては学校創立以来初となるプロ入りだった。鋭く縦に曲がるスライダーを武器に、着実に成長を続けてきたが、主戦場は3、4軍。3年間で2軍公式戦での登板も叶わぬまま、チームを去ることになった。

 熱心に応援し、サポートしてくれた両親には1番に伝えた。「父さんの趣味というか、自分を追い掛けることくらいしかなかったから……。自分よりもしんどそうだった」。地元の千葉から時折、福岡県筑後市のファーム施設にまで駆け付けてくれていた父のショックを感じ取ると、より一層悔しさが増した。

 自身をプロの道へと送り出してくれた市立松戸高の朝隈智雄監督にも電話で報告した。恩師から発された「お疲れ様」の一言に胸が熱くなり、感情が込み上げた。朝隈監督には「高校最後の試合の時より悔しいやろ」と言われた。図星だった。「高校最後の試合って、みんな大体泣くじゃないですか。でも相手も強かったし、負けて当然やなと思ったから、別に泣かなかったんですよ。うちは強豪校じゃないし、他のみんなの熱量とかを含めても、相手に勝つ方が失礼だと思うくらい。だから、そこまで悔しくもなかったんです」。

 ただ、今回はまるで違った。「プロは自分がどれだけ頑張って、どれだけ成績を出せるかで、クビかどうかが決まるじゃないですか。だから、本当に悔しくて。それを監督に指摘されて。結構、心に来るものがありました」。全てを見抜かれた一言に、様々な感情が込み上げた。

 朝隈監督との出会いは中学生の時だった。瀧本が所属していた八千代中央シニアの練習を見に来ていたことがきっかけだった。「自分は野手で、6番を打っていた。いくらシニアとはいえ、特筆するような選手じゃなかったんですよ。でも、監督からは『瀧本はプロにできる。高卒でもプロに行かせられる』みたいなことを言われて。母さんと2人で『は?』みたいな感じでした」。その時の衝撃は忘れられない。

強豪私立から特待の話も…「埋もれると思い全部やめました」

 県内の強豪私立からも特待の話はあったが、結果的に“熱烈オファー”を受けた市立松戸高を受験した。スポーツ推薦などもない公立校だったため、入学を誘われたとはいえ、「勉強頑張って」と言われるに留まった。瀧本は冷静に考えた。「チームの強さとか交通の便とか、そういうのを考えて。他に特待の話がきていた高校は強かったけど、埋もれるなと思って全部やめたんですよ。行っても活躍できる保障がないなと」。

 当時16歳の選択は、あまりに現実的だった。「中学の時は本当に野球が嫌いで。野球で高校を選んだら、野球が全てになるじゃないですか。『そんな生活、俺はできない』と思って。だから、ちゃんと学校生活があって、野球があってみたいなところがいいと思って、そこにしました」。自宅からの通学も電車で1駅。自転車でも通えることも決め手になった。

 市立松戸高に無事に合格し、朝隈監督の下での野球が始まった。中学時代は外野手だったが、高校1年の途中から投手に転向した。「監督は体育の先生だったので、授業で自分が高跳びで160センチくらいを飛んだ後に、『こいつをピッチャーにしよう』と思ったらしいです。野球強豪校じゃなかったので、どうせやるなら投手をやりたいなとは思っていました」。瀧本は1年の秋大会から本格的に投手としてプレーした。高校3年間で“野球嫌い”だった球児は心身ともに大きな成長を遂げ、育成選手として夢の舞台へと歩みを進めることになった。

「先生は野球をしっかり考えられているというか、スポーツ科学を学んでこられた人なので。だから、考えて野球ができるようになったのも、考える努力をできるようになったのも監督のお陰。尊敬できる人です」と瀧本は言う。

 選手としての可能性を見い出し、育ててくれた朝隈監督への恩返しはまだ終わってない。「監督から『野球を続けたいんか?』と言われて。最終的には大学に行きたいという話は前からしていましたけど、それまでは野球をやりたいと話しました。監督も社会人やクラブチームを探してくれていたみたいで、『“瀧本争奪戦”が千葉で起きているから、安心しろよ』と言ってくれて。『そういう話はあるけど、お前には素晴らしいキャリアがあるから。(ほかに)いい話があるなら遠慮なく断っていいから気にするな』とも言ってもらいました。キャリアといっても、育成じゃないですか。それでも、そう言ってもらったことが嬉しかった」。ずっと気にかけてくれる恩師に改めて感謝の気持ちが込み上げた。

 まだまだ野球で夢を叶えた姿を見せたい人達がいる。瀧本がまず見据えるのは、12球団合同トライアウト。くしくも、地元の千葉で開催される。お世話になった人々の前で、次の道に繋がる投球をしてみせる。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)

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