ド軍でも頂点の山本由伸 “5冠”を支えた仲間に感謝…悔しさ胸に登ったV街道
ドジャース・山本由伸「1番になるために、全力で頑張るんじゃないですか?」
【MLB】ドジャース 7ー6 ヤンキース(日本時間31日・ニューヨーク)
ストローで飲んでいたアイスコーヒーが、すでに懐かしい。「焙煎にも深みがありますよね。正解はないと思います。自分で確かめて、それが美味しいかどうか……。経験してみないと、わからないことばかりです」。ドジャースの山本由伸投手は、メジャー移籍1年目からワールドシリーズを制覇して、世界一に輝いた。
見たこともない世界を肌で実感した。26日(日本時間27日)、ヤンキースとのワールドシリーズ第2戦。先発マウンドに上がり、7回途中を1安打1失点。86球に全ての力を込め、白星に貢献した。
ワイルドさが増した1年になった。ピンチの場面を封じると絶叫を繰り返す。右拳をグッと握りしめ、渾身のガッツポーズ。じっくりとローストされ“アメリカナイズド”された姿が、そこにはある。
努力を継続できる理由を尋ねたことがある。「1番になるために、全力で頑張るんじゃないですか? どのスポーツでも、どんな仕事でも、その考えはシンプルです。負けないように。負けないようにじゃなくて、勝てるように。勝てるように楽しむ。大人になってから、すごく難しいことかもしれないですけど、楽しむのが1番大切だと思います」。真剣な表情で言葉を紡ぎ、最後は「フフフっ」と笑うのが、いつもの姿だ。
屈託のない笑みが消えていたのは、今季開幕戦の3月20日だった。翌21日の第2戦がデビュー戦とあり、前日会見に出席。表情はこわばり、お世辞にも血色がいいとは言えそうになかった。6月には右肩を痛めて、約3か月の長期離脱。自宅で過ごす時間も、自然と長くなった。
思い出のマラソン大会「あの負けは相当悔しかった」
そんな移籍1年目を支えてくれたのは、宮崎・都城時代の先輩にあたる石原与一氏、専属料理人の菊地慶祐氏だった。石原氏は昨年から米国で過ごし、山本がアメリカ生活に早期アジャストすることを懸命にサポートした。菊地氏は栄養を考えつつも山本の好物をピックアップ。スーパーで食材をゲットするたびに、メニューを考える日々を送った。
仲間の献身もあり、これで5個目の冠を獲得した。2019年はプレミア12、2021年は東京五輪で頂点に。2022年はオリックスで日本一、2023年はWBCで世界一を経験。そしてドジャースに加入した2024年はメジャー移籍1年目で世界一に輝いた。
1番になるため、努力を惜しまない姿が結果に表れている。岡山・備前市の伊部小2年でクラスメートになった柏レイソルの島村拓弥に、マラソン大会で敗れたことがある。備前中を卒業するまで8年間、ともに過ごしたが「あの負けは相当悔しかった。どれだけ走っても勝てなかったんで……。ああいう悔しさって、大きくなってから思い出すことがありますよね、たまに」。“ライバル”に勝つため、孤独に走った夜道も忘れられない思い出だ。
頂点に立って浴びる、歓喜のシャンパンファイト。アルコールで紅潮した笑顔は、大人の深みが増していた。26歳。まだまだ高い目標を描く。叶わない夢なんて、ない。
(真柴健 / Ken Mashiba)