異国で受けた衝撃「命の保証はないぞ」 銃撃の恐怖…トラウマになったベネズエラ生活

元ロッテ・渡辺俊介氏【写真:編集部】
元ロッテ・渡辺俊介氏【写真:編集部】

2014年は米独立→ベネズエラでウインターリーグに参加した渡辺俊介氏

 ロッテで活躍した渡辺俊介氏は2014年、メジャーキャンプから始まり、米独立リーグへ移ってシーズンを終えた。翌年に向けてさらなる機会を求め、ウインターリーグに参戦することを決意。新たな挑戦の地はベネズエラだった。世界で1、2を争うほど“危険な国”での生活は、強烈なインパクトだったという。

 所属したのはベネズエラの首都・カラカスのチームだった。「ものすごい人気チームなので、常にお客さんはいっぱいで。平均観客数は1万5000人くらいだったかな。週末は2〜3万人で超満員でした」。毎試合全国放送もあり、「数試合投げただけでみんな僕の存在を知っていました」。ウインターリーグとはいえ、野球人気国でファンのモチベーションは高い。

 一方で、ベネズエラは治安が悪いことでも有名だ。「当時、強盗殺人が世界一多いと言われていました」。チームで移動する時、バスの前後には必ず自動小銃を持ったバイクの警備隊が同行。バスの中にも「ごついセキュリティ」が3人乗っており、バスが町中を走る時は信号止めてノンストップだった。「WBCとかメジャーのワールドシリーズもそうですよね。あれが常に、っていう状態でした」。

 実際に危険な目にあうことはなかったが、外出はできる限り控えた。「一度、日本大使館の方と一緒に防弾車で食事に行ったことがありました。途中で2回くらい車乗り換えるんですよ。つけられてるかもしれないから、という理由で」。選手同士の食事も大げさでなく“命懸け”だ。「みんなで食事に行った帰り、2人でタクシーで帰ることになったんです。そもそもタクシーには絶対乗るなと言われていて、これはもうルーレット、4分の1は強盗だからと。でももう1人の選手が、たまたま乗ったことのあるタクシーの運転手を見つけて、『これは大丈夫だ、これに乗ろう』って。あの時はすごくドキドキしましたね」。

 安全に関する指導も受けたという。外出時はドアを開けたら必ず、一歩踏み出る前に周りを確認するようにした。「こいつは警戒しているから襲うのをやめよう、何か準備しているかもしれない、って思ってくれて、プロの強盗は寄ってこないよ、と。薬とかで狂っている奴は来るかもしれないけど。あと、拳銃の弾は高価でみんな使いたがらないから、無抵抗であれば、撃たれることはあまりないよと」。なんとも実践的な話である。

「結構細かいですよね。あとは、必ず手を体から離しなさいって。この辺(体幹の近く)で手を挙げると動いた瞬間に撃たれるよと」。危険な国での生活は、渡辺氏にトラウマを残した。「しばらくは暗闇恐怖症でした。日本に帰ってきても人気のない通りには入っちゃいけないんじゃないかという、トラウマがありました」。

食事は「アメリカよりベネズエラの方がおいしかった」

 肝心の野球は、チームのほとんどがシーズンを終えて参加するメジャーリーガー、もしくはメジャー経験者ばかりでレベルが高かった。「キャッチャーは3人ともメジャーリーガーだったので面白かったです。岩隈とかダルビッシュとバッテリーを組んでいた捕手もいた。彼らは日本人のことをよく知っていました」。

 米国での野球も経験したが、ベネズエラの野球観は日本に近いものがあった。メジャーでも不文律を破るのは中南米の選手が多いと言われることがある。「(ベネズエラの選手は)『何がいけないんだ、勝つためだろう』、っていうのを平気で言える。アメリカの野球で育ってきている選手にとっては、(ベネズエラでのプレーは)それはそれでストレスだったみたいです。アメリカ人の選手が居心地悪そうにしている姿を、渡米以来初めて見て、今は彼らが外国人なんだと実感しました」。

 環境面でも日本に近い部分を感じたそうだ。「湿度も高いし、米とか魚を食べるし。水は気をつけなきゃいけないですけど、食事も気候も、ベネズエラはどちらかと言えばアジア寄り。当時はベネズエラの選手が日本に来て活躍することも多かったけど、適応しやすいんだろうなって思いましたね。食事は断然、アメリカよりベネズエラの方がおいしかったです。お腹壊すことも多かったですけどね」。

 NPBに区切りをつけ、飛び込んだ新たな世界は刺激ばかりだった。「あの時はとにかくメジャーに近いところがいいと思って、ベネズエラを選びました。プエルトリコの話もあったらしいんですけどね。でもベネズエラに行くって言ったら、みんながみんな、お前本当にいいのか、ベネズエラは危ないぞと。命の保証はないぞと言われて行った。正直、今となっては僕も人には勧められないですね」。冬の間だけの生活だったが、忘れることはない。

(伊村弘真 / Hiromasa Imura)

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