“宇野ヘディング”事件の真相 なぜか広島主砲から漏れた安堵…本塁打王に刻まれた記憶

中日で活躍した宇野勝氏【写真:山口真司】
中日で活躍した宇野勝氏【写真:山口真司】

宇野勝氏は1981年の巨人戦で飛球を額に当てて落球「本当に下が硬くて」

 元中日内野手の宇野勝氏(野球評論家)を一気に“時の人”にしたのが、1981年8月26日の巨人戦(後楽園)でのヘディング落球だった。飛球を追いかけた際に目測を誤って額に当ててしまったもので、テレビ番組の“好プレー珍プレー”を盛り上げるのにも一役買った。「あれからというもの、ショートフライが上がるとお客さんが沸いてねぇ」。伝説のシーンや、それにまつわる出来事を当事者が振り返った。

 2-0で中日リードの7回裏2死二塁、代打で登場の巨人・山本功児内野手の打球は遊撃後方に上がった。巨人は前年の1980年8月4日から連続試合得点を続けており、先発マウンドの中日・星野仙一投手は「俺が止める」と燃えていた。その打球を見て、この回もゼロと確信した。ところが、遊撃手の宇野氏が取り損ねてしまった。額に当ててヘディングしたように跳ね返ったボールは左翼フェンス際まで転がり、その間に二塁走者が生還した。

 一気に本塁を狙った山本功児は、大島康徳左翼手とカバーに入った正岡真二二塁手による中継でアウトにしたが、1点を失った星野はホームベース付近でグラブを叩きつけて悔しがった。硬い人工芝とスパイクのけんの影響で、宇野氏はバランスを崩したと言われる。「そんなのは言い訳だけどね。本当に下が硬くてさ、けんのスパイクで後ろに下がっていって顔が揺れているって感覚だったよね。感覚はね。言い訳をすればだよ」と説明した。

「ちょうどあの年、後楽園球場に(オーロラ)ビジョンができて、リプレーが出るようになったんだよね。で、あの時(外野手の)平野(謙)さんと一緒にベンチに帰って来る時にさ、お客さんが沸いているわけよ。何だろって見たら、あのリプレーが映されていた」と宇野氏は苦笑しながら話した。「あれからというもの、ショートにフライが上がると沸いてねぇ。またやるんじゃないかっていうお客さんの反応が聞こえた、聞こえた、無茶苦茶聞こえたよ」。

 それでもプレーには全く影響なし。「まるっきり何も。“それからは落としたことはねーよ”ってんだよね」と笑いながら話した。さらに「あの試合、2-1で勝ったけど、先制打は宇野のタイムリー(4回に適時二塁打)だからね」と言い、思い出したように「翌日(8月27日の巨人戦)に俺はホームランを打ったんだよ。そしたらさ、前の日にあんなことがあったのに、こいつは何も考えていないとか、新聞に書かれてさぁ。失礼な話だよね」と付け加えた。

山本浩二から感謝「俺も当たってなぁ。かっこ悪くてよぉ」

「星野さんがグラブを叩きつけたのは後から映像で見た。その時は知らなかったよ。でも怒っていたのはわかった。ベンチの中を撮ろうとするカメラマンに向かって水をパーってまいていたしね。俺は覚えていないけど、あの時は星野さんにすみませんって言ったんだろうね。でも、その後もベンチで俺は星野さんの横にずーっと座っていたような気がするけどね」。試合後、そんな怒りの先輩投手から食事に誘われたという。

「星野さんが逆に俺に気を使ったんだろうね。その時はウチの兄貴が来ていたから行けなかったんだけどね」。後日、名古屋で食事に出掛けることになった際、宇野氏は星野氏のベンツに追突した。「ナゴヤ球場を出てから、最初の信号くらいのところだったけどね。追突といってもコツンって感じだよ。直すような傷も全然入っていなかった。そのまま食事にも行った。翌日、球場で会った時に『ああ、首が痛いなぁ』って冗談で言われたけどね」。

 宇野氏の“ヘディング守備”はテレビの珍プレー番組を確立させるきっかけにもなった。「みのもんたさんは、あのナレーションでどんどん出るようになったもんね。潤ったよねぇ、きっと。だって、あれからだもんね。ああいう番組ができたのは。視聴率もとれて、まして世間もバブルだったしねぇ」と、ちょっと複雑な表情で話した。

 2024年9月8日のヤクルト対阪神戦(神宮)で阪神・佐藤輝明内野手が三塁フライを“ヘディングエラー”したが、宇野氏は「そんなことあったの」と言いながら「でもさぁ、あれって山本浩二さんもやっていたんだよね。俺と同じ年にね」。ダイヤモンドグラブ賞(現ゴールデングラブ賞)10度の名手、広島・山本浩二外野手は宇野氏より約4か月前の1981年4月19日の巨人戦(後楽園)のセンター守備で打球を頭に当てていた。

「浩二さんにどこだったかで言われたことがあるんだよ。『よかったぁ、お前がいてくれて。俺も当たってなぁ。かっこ悪くてよぉ』ってね。浩二さんもまともに当たっていたけど、俺ので全然かき消されていたもんね」。あれから40年以上の月日が流れても、世代を超えて宇野氏の“ヘディング守備”は知られている。もちろん、1984年に本塁打王に輝くなど実績も人気もあった選手だからこそ語り継がれているのは言うまでもない。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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