一筋縄ではいかない五輪出場 大谷翔平らが意欲も…トップ選手に立ちはだかる“障壁”【マイ・メジャー・ノート】

WBC優勝を果たしトロフィーを掲げる大谷翔平【写真:Getty Images】
WBC優勝を果たしトロフィーを掲げる大谷翔平【写真:Getty Images】

2023年WBCを辞退したカーショー…保険会社の審査が通らなかった

 昨季、右肘の靭帯修復手術から打者に専念したドジャースの大谷翔平投手は、投打二刀流の一角獣(ユニコーン)復活を心に期する2025年のシーズンを迎える。その大谷が、時計の針をさらに進めて大いなる意欲を示しているのが2028年に地元ロサンゼルスで開催される五輪出場である。

 野球ファンにとって、大きな関心ごとの1つになったロサンゼルス五輪だが、「史上初めてとなるトップメジャーリーガーの出場の可否」にはいくつもの障壁が立ちはだかっている。筆者は、出場選手に加入が求められる「保険」を手強い事項と捉えている。その考拠は2つの事実が照らす。

 2023年に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を前にして、米球界屈指の左腕が急遽、出場を辞退したことを思い出してほしい。

 WBC米国代表入りが決まっていたドジャースのエース左腕クレイトン・カーショー投手が、大会間際に出場を断念したというニュースが大きな話題になった。理由は、長期離脱の故障歴と高額な年俸がネックとなり保険会社の審査が通らなかったことだった。

 カーショーは2021年に左前腕、2022年には腰痛で長期離脱を余儀なくされた。再度の故障を懸念した保険会社は「(20億円を超える)年俸分を保険でカバーできない」と却下。自身で保険加入も考えたカーショーだったが「高すぎた」と無念の幕を引いた。

 選手に不測の事態が起きた場合、給与を保証するのが保険だ。高額年俸になればなるほど掛け金が上がり所属球団に負担がかかる。カーショーの一件はその好例である。

Aロッドとレンジャーズの大型契約は一時暗礁に…土壇場で現れた“救世主”

 ここで、選手の保険がどれほどのものかが分かるもう1つの所在を明らかにする――。

 2000年のオフ、アレックス・ロドリゲスの代理人スコット・ボラス氏は、レンジャーズと10年2億5200万ドル(約300億円)の契約を成立させ話題をさらったが、当時「プロスポーツ史上最高額」と謳われた世紀の契約には余人が知り得なかった交渉秘話があった。後年、ロドリゲスはドラマのような結末を切り取った。

「レンジャーズのトム・ヒックス球団オーナーは、交渉の詰めの段階で切羽詰まっていたんです。保険会社へ支払うお金が捻出できなかった。でも、土壇場で救世主が現れたんです。誰だと思います? なんと、あのウォーレン・バフェット氏だったんですよ! 彼がいなければ僕の契約はどうなっていたか分かりません。これ、本当の話です」

 浮かぶ情景に思わず息を呑んだ。

 「投資の神様」と言われるウォーレン・バフェット氏の存在なくして世紀の契約は成り立たなかった。94歳で今も現役のバフェット氏は数年前に、伊藤忠を含めた日本の5大商社株の保有比率を上げたことで話題になり、日本の投資家たちからもあがめられている。

 米経済誌フォーブスは、保険業を含めた子会社や関連会社、株式などを所有する投資持株会社「ヨークシャー・ハサウェイ」の会長兼CEOで筆頭株主であるバフェット氏の個人資産を約20兆円としている。

メジャー選手の五輪出場に必要な協定の変更…公式戦の中断も不可欠

 アレックス・ロドリゲスが話してくれた交渉秘話は、契約の画竜の点睛が「保険」であることを物語っている。

 五輪野球の歴史をふり返ると、メジャーのベンチ入り26人枠にいる選手の出場が認められたことはなく、そのためには2026年オフの機構側と選手会側の労使交渉で協定の変更が必要になる。さらに、公式戦の中断が不可欠。球団オーナーにとっては営業面で、選手には記録面で影響が出る。

 昨年7月の球宴前日に行われた会見で、大谷が「オリンピックは特別。野球界にとっても大事かなと思う。個人的にも出てみたいなと思っています」と出場への意欲を示すと、ヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手、フィリーズのブライス・ハーパー内野手ら大物スター選手も賛同。しかし、メジャーリーグ機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーと選手会を取り仕切るトニー・クラーク専務理事からは具体的な言葉はまだない。

 一筋縄ではいかないメジャーリーガーの五輪出場への道のりは、険しい。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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