今でも“謝罪”「あの時は悪かった」 消された先発初勝利…阪神右腕、想定外のローテ入り

阪神時代の川尻哲郎氏【写真提供:産経新聞社】
阪神時代の川尻哲郎氏【写真提供:産経新聞社】

元阪神・川尻哲郎氏は6登板目でプロ初先発…5回1/3を1失点

 元阪神投手の川尻哲郎氏はルーキーイヤーの1995年から8勝を挙げるなど活躍した。中継ぎからスタートし、好投を続け、先発のチャンスをつかみ、一気にローテーション入りも果たした。プロ初完投勝利も、プロ初完封勝利もマーク。26歳のドラフト4位右腕は見事なばかりに即戦力の働きを見せた。「プロで先発するなんて思ってもいなかったんですけどね」。きっかけになったのは巨人・松井秀喜外野手に本塁打を浴びた試合だったという。

 1995年の川尻氏は開幕2軍からスタートしたが、初登板だった4月28日のヤクルト戦(甲子園)に中継ぎで白星をつかんだ。その後、リリーフで好投を続け、6登板目の5月18日のヤクルト戦(甲子園)でプロ初先発。自身に勝ち負けはつかなかったが、5回1/3を1失点と及第点の投球を見せた。8登板目の5月28日の横浜戦(甲子園)では5回2/3を2失点で勝利投手となり、そこから先発ローテーション入りした。

「初先発の時は(リリーフの)久保(康生)さんが打たれて、僕の勝ちが消えたんです。いまだに言われるんですよ。久保さんに『あの時は悪かったな』って。『よく覚えていますね、そんな昔のこと』と言っていますけどね」と川尻氏は笑顔で振り返りながら「まさかプロに入って先発するなんて思ってもいなかった。抑えをやりたいなというのがあったんでね」と話す。社会人野球・日産自動車時代は抑え投手。リリーフでの活躍を目指していた中での先発転向だった。

 そのチャンスを逃さなかった。「(リリーフ同様に)一人一人を抑えようと思って、もうほぼほぼ全力で投げていた。その積み重ねで結果を残した感じでしたね」。9登板目の6月4日の中日戦(甲子園)では、7回2/3を2失点で3勝目。阪神が8-5で勝った11登板目の6月17日の中日戦(甲子園)では、プロ初完投勝利で4勝目を挙げた。「初完投の時は点差もあるし、最後まで行けって言われて9回に立浪(和義内野手)に3ランを打たれたのは覚えていますけどね」。

1年目は8勝11敗、防御率3.10「防御率を気にして投げようと」

 1995年の阪神は優勝したヤクルトから36ゲーム差の最下位。チーム打率もリーグ最下位で援護も少なく、川尻氏は好投しても敗戦投手になるケースが多かった。そんな中で、18登板目の8月5日の中日戦(ナゴヤ球場)では被安打3でプロ初完封勝利をマークするなど、先発で奮闘した。1年目は8勝11敗、防御率3.10。規定投球回にも到達した。その中で印象深いのは、まだリリーフだったプロ5月4日の巨人戦(甲子園)という。

 その試合の川尻氏は1-2の7回から先発・山崎一玄投手をリリーフして最後まで投げ、3回1失点だった。「松井にホームランを打たれたんですけど、ヒットはその一発だけだったんです。それが先発への布石だったんですよ。巨人戦で3イニングを1失点で抑えて、首脳陣も先発でもいけるんじゃないかとなったと思う。猪俣(隆)さんとマイク(仲田幸司)さんの調子が悪くなって、先発がいなくなった時だったんでね」。

 いろんなタイミングもあった中で結果を出して、先発投手になった。そのきっかけが、5・4巨人戦だったというわけだ。「あの時は(阪神打線が)0点の時も多かったんですよね。たまにポンと点が入るんだけど、手も足も出ないで負けちゃう試合も結構ありましたね。まぁ、去年(2024年)の阪神の前半戦みたいなもんですよ。ピッチャーは頑張っているけど、点を取れないというね」と川尻氏は話したが、それでも8勝をマークした。

「(打線との巡り合わせは)しょうがないですよ。逆のケースもあるわけですから。だから、あまり打つ、打たないよりも防御率を気にして投げようと基本的に思っていました。まぁ、自分の計算した中で、しっかり組み立てられれば、抑えられるという自信はつきましたね。そりゃあ、プロなので、なめられないし、ちょっと甘く行ったら当然打たれるんですけど、思ったように投げておけば、いけるんじゃないかなというのを感じた年でしたね」

 プロ入り当初は、全く想定していなかった先発ローテーション入り。それを一気につかんだルーキーイヤーだった。1年目が終わった時には「もう先発がいいなって思っていましたね」と笑う。「(登板するのは)週に1回だし、リリーフだったら、常に用意していなきゃいけないですからね」。しかし、そううまく事は運ばなかった。2年目の1996年はリリーフ要員でスタート。そこから、また先発のチャンスをたぐり寄せることになる。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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