黄色い声援より望む“貢献” 現ドラ移籍の31歳が語る真相…「バカにされていた」
オリックスから現役ドラフトで広島へ移籍の山足「もう最後だと思って」
新天地で輝く。今オフの現役ドラフトでオリックスから広島への移籍が決まった山足達也内野手が、謙虚さを忘れずレギュラー獲りを目指す。「広島さんにお世話になりますが、向こうに行ったからといって立場がよくなるとは思っていません。むしろ、今までオリックスで7年間培ってきた地位がゼロになるんで、また厳しくなると思います」。覚悟を決めた口調で切り出した。
山足は大阪府枚方市出身。大阪桐蔭高2年で春の甲子園に出場、立命大では大学日本代表に選出され、Honda鈴鹿を経て2017年ドラフト8位でオリックス入り。内野をどこでも守れるユーティリティープレーヤーとして、存在感を示してきた。
打撃が課題とされ定位置を確保することはできず、トレードや現役ドラフトが話題となる時期には、ファンの間などで名前が出されることが多かった。「名前が出るということは、良いことじゃないですか。僕はレギュラーじゃないし、絶対に残ってほしいと言われるような選手になることもできていません。自分が悪いことなんで……」と客観視。今回の現役ドラフトも前向きに捉えている。
「他の人から見ればマイナスかもしれませんが、他人が評価することに別に何も感じません。マイナスの意見があっていいと思います。1つの球団でプロ生活を終われることは素晴らしいと思いますが、2球団を経験することができるのは僕にとって素晴らしいことなんです」と明るい表情で話すのは、密かに新しい環境を求めていたからかもしれない。
「本当にショックでした……」と悔しさをあらわにしたのは、2024年2月だった。リーグ3連覇を果たして迎えた2023年の日本シリーズで、出場登録メンバーから漏れたことに話が及んだ時のこと。球団から「帯同してチームを支えてほしい」と伝えられたが、断った。選ばれなかったことに対する不満ではなく、選ばれなかったことを厳粛に受け止め、2軍の選手と一緒になって課題とされる打撃を磨く道を選んだ。
心のどこかでバカにされていた「時代は山足」…移籍で「山足の時代」へ
「時代は山足」のフレーズでファンに愛されている。優勝祝賀イベントで、クラッカーを合図の前に“誤って”鳴らしてしまったことで「時代の一足先を歩んでいる」という意味で、それまで一部のファンの間に広まっていた「時代は山足」というキャッチフレーズが一気に定着した。
「最初は、バカにされていたんですよ。トークショーに来てくれた人が『はじめはバカにした感じで流行らせました』と打ち明けてくれました。バカにし過ぎやろとも思いましたが、球団がタオルまで作ってくれて、僕にとってプラスでした。バカにされようが、何を言われてもやることをやっていれば、良い評価をされる職業なんで」と受け止める。
沖縄で行っている杉本裕太郎外野手の自主トレに、志願して参加した。「ただ仲がいいからではなく、研究熱心で本当にリスペクトしているスーパー選手です。ご飯を食べに行ってバカ話をしていても、いつの間にかバッティングの話をしているし、そういう人の意見は貴重だと思っています」。自主トレ参加を決めたのは、現役ドラフトが決まる前だった。「僕ね、もう最後だと思ってプロ野球選手らしいことをしたいなと」と、プロ8年目のシーズンを不退転の決意で臨むつもりでいたという。
「セ・リーグの野球のこともメディアの人から聞かれますが、自分のことでいっぱいいっぱいで、セがどうとか、広島さんがどうとか、本当にわからないんです。自分のことに必死で、へばりついてきた7年間なので」
素直な気持ちを吐き出し、地元・大阪から飛び出した。「ピリピリした場面で打席に立ちたい。そういう場面で打ちたい。女性ファンにキャーキャー言われるよりも(チームの)役に立ちたいんです」。真っ赤に染まるマツダスタジアムで躍動し「山足の時代」を作ってみせる。
(北野正樹 / Masaki Kitano)