「受け皿がない」…野球選手の競技生活と仕事 離島発の社会人チーム誕生の裏側

イワキテック硬式野球部が2025年3月からJABA四国大会に参戦
造船関連製品を製造するイワキテック株式会社(愛媛・越智郡)がクラブチームを立ち上げ、2025年シーズンから社会人野球に参戦する。2024年8月にJABA四国野球連盟に加盟し、3月23日に今治市で開催の春季四国大会で公式戦デビューの予定。野球を続けたい人の受け皿が少なくなっていく中で、新たな試みには企業としての“戦略”があった。特筆すべきなのは、所在地が岩城島という離島であること。地方創生とも向き合える同社の挑戦に迫る。
広島・尾道市から高速船で約30分。広島と愛媛の間、瀬戸内海に浮かぶ岩城島は、造船業が盛んな地域として知られる。離島ながら「しまなみ海道」にも近く、広島県や愛媛県の主要都市へのアクセスも比較的良好だ。この島に本社を構えるイワキテックは、長年若手人材の確保に課題を抱えてきた。新卒採用を進めても、多くの若手がアクセスの良い広島県側の工場勤務を希望し、本社に若手が定着しない状況が続いていた。
ある野球関係者から「野球を続けたいが受け皿がない選手が多い」という話を聞いた村上部長は人材の採用に生かせないかと考えた。イワキテックの上層部に提案したところ、野球愛にあふれる社長、副社長の後押しを受けた。その結果、実際にチーム設立が決まった。インスタグラムの発信や野球関係者を通じて、興味を持つ若者の耳に届き、現在では20名の選手が在籍。新しい働き方のモデルケースとなった。
選手たちは社員として午前8時から午後5時まで勤務し、その後に練習を行う。土日はどちらかを休みとし、メリハリのある生活を送っている。独身寮の新設や社食の充実など、選手生活を支援する体制も整備。「生活基盤を安定させることで、野球を長く続けられる環境を作りたい」と村上部長は思いを語る。
クラブチーム設立の目的は、選手の競技生活を支えるだけでなく、引退後のキャリアまで見据えたものだ。「野球を引退しても、イワキテックで働き続けられる仕組みをつくることが重要」と選手たちには、将来的に技術継承の担い手となることも期待し、人材を育成していく。
経営陣も、野球部の運営費を負担するなど積極的な支援を行っている。スポーツを通じた人材確保という新しい試みは、離島や地方企業が抱える「若者の流出」という課題に対する、一つの解決モデルとなる可能性を秘めている。