離島から初の甲子園、寄付は450万円超 応援団は10時間移動…感動の超満員の背景

東洋大姫路戦に登板した壱岐・浦上脩吾【写真:加治屋友輝】
東洋大姫路戦に登板した壱岐・浦上脩吾【写真:加治屋友輝】

21世紀枠で壱岐が春夏通じて初の甲子園に出場した

 第97回選抜高校野球大会は20日、21世紀枠出場の壱岐(長崎)が1回戦で優勝候補の一角・東洋大姫路(兵庫)と対戦。2-7で逆転負けを喫したものの、初回に2点を先制する健闘を見せた。それ以上に衝撃的だったのは、壱岐を応援する一塁側アルプス席が超満員となったこと。これには地元・兵庫の東洋大姫路応援団も顔負けだった。

 実際のところ、壱岐島から甲子園までは、あまりに遠い。壱岐の一般生徒・学校職員ら約260人は前日(19日)夕、フェリーに乗船し出発。約2時間半かけて福岡・博多港に着くと、そこからバス9台に分乗し、約8時間揺られて兵庫県内のサービスエリアに到着した。そこで時間調整し、試合時間に合わせて甲子園に横づけした。

 10時間を軽く超える強行軍だったが、応援責任者の光永和志教諭は試合前から「覚悟の上です。ワクワクの方がはるかに大きいです」と意気軒高だった。

 離島の壱岐島から、春夏を通じ初の甲子園。約4000席のアルプススタンドは、あっという間に埋まった。野球部の経費の足しにしてもらおうと、OB会が2月中旬から始めたクラウドファンディングにも、1か月弱で450万円が集まった。責任者の柴山琢磨さんは「壱岐の甲子園出場を様々なSNSで発信したところ、『私は島民でも出身者でもありませんが、ぜひ甲子園で壱岐を応援したい。どうしたらいいでしょう?』といったお問い合わせを多数いただきました」と“超満員”の背景を説明した。アルプス4000席のうち、2800席は学校に割り当てられるが、残る一般席は即完売となったそうだ。

 思いがけない甲子園出場とあって、全てが急ごしらえでもあった。壱岐の吹奏楽部員は十数人と少ないため、島内の壱岐商、郷ノ浦中、同じ長崎県内の対馬高から助っ人を呼び、約40人の編成となった。一方、人口2万3642人(2月末時点)の壱岐市内でも選抜出場決定後、この日へ向けてムードを盛り上げてきた。毎日午前7時には選抜高校野球大会の大会歌、正午には壱岐の校歌、午後5時には今年の入場行進曲である「幾億光年」(Omoinotake)のメロディーが流れていたという。

逆転されても絶えない声援「島の人たちはあったかいな…」

 こうして超満員となった壱岐サイドのアルプス席は、攻撃中はもちろん、守備中も休む暇がなかった。試合を逆転され、劣勢となっても、「まだ行けるよー!」、「ファイトー!」とあちこちから声が飛び、絶えることがなかった。ピンチでも拍手でナインを鼓舞し、チェンジとなれば大歓声が上がった。前出の光永教諭は「島の人たちはあったかいなあ……と改めて思いました」と感慨深げだった。

 敗戦後、坂本徹監督も「初回からすごい声援をいただいて、本当に選手たちの力になったと思います」と感激の面持ち。離島の雄の精一杯のプレーと、暖かな雰囲気に包まれたアルプス席を、夏にもう1度見てみたい。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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