急な「いけるか」に備えて…元謙太が生き残りへ掲げた「1つだけじゃない」ポジション

急な守備固めにも4球で準備
オリックスの元謙太外野手が、5年目で1軍定着のチャンスをつかみつつある。
「しびれるような場面で使ってもらえば、自信になります」。元が口元を引き締めた。
元は中京高2年夏の甲子園準々決勝(作新学院戦)で、逆転満塁本塁打を放ち4強入りに貢献、2020年ドラフト2位でオリックスに入団した。1年目は「遊撃」と「三塁」で、ウエスタン・リーグでチームの全111試合に出場。2年目からは守備機会を求めて外野に転向した。しかし、打撃面に課題が残り、1軍では2022年、2024年に各5試合出場とチャンスをつかめていなかった。
今季は、得意とする守備力を磨いて出場機会を増やそうと決意。守備力のあるチームの先輩、佐野皓大外野手と現在は中日でプレーする後藤駿太外野手の自主トレに参加させてもらった。後藤からは「スローイングは心配ない。自信を持っていい。もう土台はできているから、1軍で経験を積んで感覚を得るだけ」とお墨付きをもらうことができた。
開幕1軍は逃したが、2軍戦では自身15試合消化時点で打率3割をキープして昇格機会を待ち、5月5日に1軍選手登録を果たした。守備力を試される場面が5月28日のロッテ戦(ZOZOマリン)でやってきた。
2-1の9回。ロッテの先頭、ネフタリ・ソト内野手を二塁打で出塁させたところで、左翼守備に就いた。1点差での守備固め。回のアタマからの出場ならイニング間に遠投などの守備練習もできるが、いきなりの本番。それでも元には、緊張感はそれほどなかったという。
「9回表が終わった時に、ベンチで『交代がありますか』と聞いたら、『得点圏になったらあるかもしれない』という返事でした。キャッチボールはできませんから、ベンチの裏で体を動かしたりボールを持って腕を振ったりして、いつでも投げられる状況を作っていました」と元。ソトが出塁したのを見て、ベンチ前で福永奨捕手を相手に4球ほどキャッチボールをして、左翼に走ったという。
5球目に飛んできた高部瑛斗外野手の打球を無難にこなし、アンドレス・マチャド投手があと二つのアウトを取って1点差のまま、チームは逃げ切った。
元の守備について、松井佑介・1軍外野守備走塁コーチは「肩がいいですし、送球の安定感があります。大事なところでの守りは任すことができます」と評価する。昨年まで2軍の外野守備走塁コーチを務め、元を指導してきた松井コーチは「本当に球際に強くなりました。しっかりと準備をしてくれるので、こちらとしては非常に助かります」と成長ぶりを語る。
元は、外野だけでなく太田椋内野手、紅林弘太郎内野手、廣岡大志内野手らの故障に伴い、内野の練習も始めた。「急に『いけるか』といわれるのが一番怖いので、準備はしています。サードならまだ自信はありますから」と元。6月12日のDeNA戦(京セラドーム)では、いつ出番がきてもいいように待機していたという。
「ポジョションは一つだけでなく、何個もできるに越したことはありません。そういう選手って、貴重なんです。1年でもこの世界で長くやってもらうための一つの策かなと思います」と松井コーチ。
「自分らの場合、準備のオンパレードなんで、なんでもやれますよいうスタイルを表していかないといけません」と元。チャンスをつかもうと貪欲に自らを奮い立たせている。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)