MAX142キロで防御率0.82…広島ドラ2が無双できるワケ 専門家が見た“特異性”

広島・佐藤柳之介【写真:加治屋友輝】
広島・佐藤柳之介【写真:加治屋友輝】

佐藤柳之介富士大からプロ入り…2先発で防御率0.82

 異色の新人左腕が台頭してきた。広島のドラフト2位ルーキー・佐藤柳之介投手は今季2試合に先発し1勝0敗、計11イニング1失点で防御率0.82(6日現在、以下同)。あのレジェンド左腕をほうふつさせる投球フォームで、7年ぶりのリーグ優勝を狙い2位につけているチームにとって貴重なピースになりそうだ。

 宮城・東陵高、富士大を経て入団した佐藤柳。ウエスタン・リーグで10試合先発、2勝1敗、防御率2.95の実績を積んだ後、6月29日の中日戦(バンテリンドーム)に先発して1軍デビューを飾り、6回2安打無失点で初勝利をゲット。中6日で先発した今月6日の巨人戦(東京ドーム)でも、5回6安打1失点と好投した。

 現役時代に日本ハム、阪神など4球団で捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏は、2戦目の巨人戦の投球をチェック。「変化球を全く制球できず、調子は悪かったと思いますが、それでもいいボールを持っているという片鱗は見えました」と評した。

 確かに巨人戦での佐藤柳は、初回先頭の丸佳浩外野手に対し、3球目に投じたカットボールが相手の頭付近を襲い、必死に避けた丸のバットに当たりファウル。続く4球目のカーブもすっぽ抜けて丸の頭上を通過するなど、のっけから荒れ気味だった。

 スピードガン表示もMAX142キロと決して速くはなかったが、巨人打線はなかなかタイミングが合わない様子。結局5回83球で6安打を浴びたものの、四死球を許さず、失点は5回2死二塁でオコエ瑠偉外野手に中前適時打された「1」のみに抑えた。

「球持ちが良く、ゆったりした投球フォームやスピードガン表示から受ける印象よりも球威がある。そのギャップによって、ほとんどの打者が差し込まれていました。投球フォーム自体も、打者からは利き腕の左腕が体に隠れてなかなか見えず、最後の最後に、腕が見えたと同時にボールが放たれる印象で、タイミングを取りにくい。そういったところが点を取られない要因だと思います」と野口氏は解説する。

「相手打者はタイミングを取れずストレートに差し込まれる」

 利き腕が体に隠れ、球の出所が見えにくい投球フォームといえば、オリックス、阪神で通算176勝を挙げた左腕・星野伸之氏が有名だ。しかし、星野氏と対戦経験のある野口氏は「星野さんの場合は80~90キロ台のカーブとか、120キロ台のフォークとか、投球の全てが変化球だったくらいの印象で、そのために、たまに来る130キロそこそこのストレートが140キロ以上にも見えました。一方、佐藤柳は配球の半分以上がストレートで、その上でカットボール、スライダー、スプリット、カーブ、チェンジアップを駆使する。印象が違います」と首を横に振る。

「むしろ成瀬(善久投手=現独立BC栃木)っぽい気がします」と、ロッテ時代に2桁勝利を5回達成するなどNPB通算96勝を挙げ、39歳となった今も現役で投げ続けているレジェンド級左腕になぞらえた。成瀬のフォームは、テークバックの際の形から「招き猫投法」とも呼ばれた。

「僕はヤクルトでコーチをしていた2017、2018年に成瀬と同じ釜の飯を食いました。やはりギリギリまで左腕を体に隠し、相手打者はタイミングを取れずにストレートに差し込まれ、チェンジアップには泳がされていました。佐藤柳も変化球のコントロールがまとまってくれば、成瀬が一番活躍した頃くらいの投球ができるのではないでしょうか」と期待を寄せる。

「大卒とはいえ、あれほど下半身のどっしりした、体格のいいルーキーはなかなかいません。阪神の岩崎(優投手)や楽天の岸(孝之投手)のように、スピードガン表示以上に打席で速さを感じさせる質の高いストレートを投げていることも間違いないと思います」と高く評価する野口氏。暑さを増していく夏場に、フレッシュなルーキーが先発ローテの一角に定着すれば、チームにとってこれほど頼もしいことはない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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