監督が断っていたプロの誘い「もう遅い」　知る由なく卒業…覆らなかった進路

元ロッテ・服部泰卓氏、駒大2年春からリーグ戦登板

　ロッテで2013年に51試合登板するなど8年間のプロ野球生活を送った服部泰卓氏は、大学時代に「近づいたかな」と明確にプロを意識した。東都大学野球リーグの駒大では、2年春から公式戦に登板。ラストイヤーとなった4年秋には4完封を含む6勝を挙げてベストナインに選出されるなど、圧倒的なパフォーマンスを示した。スカウトにも注目されたが、秋季リーグ戦の開幕前に社会人野球のトヨタ自動車への入社が内定していたという。夢のプロ入りは先送りとなった。

　2001年春のリーグ戦。当時1年生だった服部氏は、同年ドラフトの自由獲得枠でヤクルトに入団する青学大・石川雅規投手の神宮球場での投球に衝撃を受け、石川に追いつくことを目標に定めた。雑用が多いなど厳しい環境で荒んでいた心も「時間なんか作ろうと思えば作れる。全部の作業を早く済ませたら時間ができる」と前向きに変化。「昼に練習できないんだったら夜やればいい。練習ができる（ベンチ入りの）メンバーに入れないんだったら、メンバーが休んでいるときにやればいい。そういう考えにスイッチできたんです」。

　すべての行動に意味を持たせて取り組んだ。「例えばボール磨きしている時も、『3年後あのマウンドでいい球を投げるために今は握力を鍛えてるんだ』と。洗濯にしても、力を入れてるのは、『この腕力が石川さんに近づく一歩なんだ』と。どうせやらなきゃいけないんだったら、そう考えてやった方がいいので」。自身と同じような体格の小さな左腕の躍動に心を揺さぶられ、失いかけた情熱を取り戻していた。

　ただ、入学直後は周囲とのレベルの差を痛感していたという。同期とのキャッチボールも「今まで受けたことがないような、めちゃくちゃいい球を投げるんですよ。『すげぇな、やっぱいい選手が集まってんだな、全国から』って思いました。自分の球は、その中では見劣りするなって感じだったんです」。だからといって卑屈になることはなかったそうだ。それは高校時代を過ごした徳島の川島高の環境に理由がある。

「僕は川島高校で一生懸命やってましたけど、強豪校から来ている選手の（高校時代の）練習メニューを聞いたら、『僕は全然練習してないな』って思ったんですよ。やっぱり知識がなかったし、環境も整ってなかった。彼らはやり込んで駒大の1年生、僕は内容的には全然練習できてない状態でいる。そこから同じ練習をしたら、伸びしろは僕の方が絶対にあるって思ったし、彼らよりちょっとでもやればどんどん伸びて上がっていく。3年後にあのマウンドにいるのは僕だと思ってやろうと考えていたんですよ」

　2年生となった2002年春。前年秋の明治神宮大会を制して日本一となった駒大の投手陣は、川岸強投手（中日-楽天）がプロ入りするなどスタッフが大幅に入れ替わる。そこに服部氏も食い込んだのである。「運よくポンポンといい投球を見せることができたんです。それで抜擢されたって感じですね」。決して運だけではない。努力の積み重ねが結果につながったのだ。

4年秋に大ブレーク…4完封含む6勝を挙げベストナイン

　着実に成長を続け、4年秋には大ブレークする。駒大を含めた4チームによる激しい優勝争いの中、12試合に登板して4完封を含む6勝を挙げ防御率1.40を記録。勝った方が優勝という2004年11月5日の最終戦に先発し、9回3失点（自責1）で完投したが打線が沈黙して敗れ、チームは4位に終わった。だが、記者投票による投手のベストナインには、優勝した中大の3年生・会田有志投手（巨人）を押しのけて服部氏が選出されたのである。

「完全にインパクトある投球ができたんですよ。優勝した中大のエースは1学年下の会田なんですけど、会田もそのシーズンめちゃくちゃ良かったんですよ（9試合4勝2敗、防御率1.00）。防御率が（1.40の）僕よりいい。僕は負け数も4つありました。チームも4位だったけど投票してもらって嬉しかったですね。初めてだったんじゃないですかね、そんな舞台で賞を獲ったのは。石川さんを目指して一生懸命やってきた中で、凄く自信になりました」

　野球をやってきて初めて掴んだ大きな勲章。川島高では見ることがなかった高レベルの選手たちに囲まれ、自分の伸びしろに懸けた4年間の集大成が、この秋に凝縮されていたのだ。それでも、石川と同じように大卒でのプロ入りとはならなかった。プロへの思いは「もちろん、ありました」というものの、秋季リーグ戦が開幕する前には、駒大・太田誠監督から勧められてトヨタ自動車に進むことが決まっていたのである。

　秋の飛躍がプロのスカウトの目に留まったのは言うまでもない。直接のアプローチはなかったものの、下位指名の可能性が浮上していたそうだ。「スカウトが太田監督のところに行ったみたいなんですけど、『もう遅いよ。あいつはトヨタ自動車に決めているんだ』っていうやりとりがあったそうです。後にスカウトの方から聞きました。その時は知る由もなかったんですけどね」。社会人の名門チームと大学球界の名将の間で一度決まった話が、簡単に覆るはずがなかった。

　当時の心境を、服部氏はこう説明する。「プロに行きたい気持ちはありますけど、少年の時の気持ちと同じですね。『ああ、プロ野球選手になりたいな』ってぼんやりしたイメージ。ずっと安定して成績を残せたわけではないので、本当に行けるかどうか分からない感じでした」。夢として抱いているが、現実的には遠い感覚。それでも「駒大は何人もプロ野球選手を輩出しているし、身近には感じてきていた。対戦相手がプロになってるようなリーグに入ることができたので、凄く近づいた感じはありましたね」と確かな手応えは得ていた。

　徳島から上京し、大学の4年間で大きく飛躍。1部リーグで通算40試合に登板し11勝7敗、防御率2.04、110奪三振の記録を残した。ドラフトでの指名は見送られたものの、目標に定めるプロは確実に近づいている実感があったのは確かだ。卒業後は次なるステージ、トヨタ自動車での社会人野球でさらにステップアップしていった。

（尾辻剛 / Go Otsuji）