性格が「全然、違う」弟の甲子園 吉田輝星が託す、7年前に届かなかった「天下」へ

昨夏に6年ぶり甲子園出場も、1回戦負け
右ひじのトミー・ジョン(TJ)手術からの再起を目指し、順調なリハビリを進めているオリックスの吉田輝星投手が、「天下」と刺繍したグラブで最後の甲子園にかける弟の“変化”に注目している。
「一番を取るという意味ですから、いいですね。弟は、僕と違って穏やかですね。気性が激しくないので、そのくらい強い言葉を入れた方がいいんじゃないですか」。TJ手術から4か月、50メートルの遠投も始め120キロ前後の球速も出せるようになった吉田が、目を細めた。
弟の大輝は、吉田が夏の甲子園で準優勝した母校・金足農の3年生エース。昨夏は吉田が準優勝した2018年以来、6年ぶりの出場を果たしたが、1回戦負け。最後の夏に、4月の誕生日に吉田からプレゼントされたグラブで臨んでいる。
「道具は、僕がお世話になっているミズノさんにお願いすればいいと言ってます。僕の給料から天引きされますから、親孝行にもなりますし(笑)」と吉田。今回のグラブも、誕生日プレゼントとして大輝が発注したもので、吉田は「最後の夏くらい、自分の好きなグラブを作れよ」とだけ伝えた。
出来上がったグラブは、吉田が甲子園で使っていたものと同じタイプで色も同じだったが、「天下」の刺繍が入っていることを吉田は知らなかったという。高校入学時に贈ったグラブに「天下」の刺繍を添えたらしいが、記憶は定かではないそうだ。
それでも、その言葉を大切にしてくれていることに、吉田の笑顔ははじける。「僕とちょっと性格が違って。親父によく言われるんですよ。『お前の学生時代と全然、違うぞ』と。冷めているのかどうなのか、本当に気合が入っているのという感じなのが弟なんで。僕は、見るからにメラメラと燃えているタイプですから」
金足農は、初戦を7回コールドで勝利。15日の3回戦も勝利し8強入りを果たした。「僕の高校時代は、地獄に行くくらい追い込みました。プロは高校時代のように集中して練習はしませんが、今でも諦めないとか、試合中に強い気持ちを持っているのは、それがベースになっているから。社会にでたら、もう何も苦じゃないというくらいの3年間を過ごしましたからね、僕は」。弟には、最後の夏に完全燃焼して、自分の代わりに「天下」を取ってほしいと願っている。
〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)