新任コーチから「何してたんだ」 忘れぬ“叱咤”…初タイトルも悲鳴を上げた右脚

元西武の金子侑司氏は4年目に53盗塁で初タイトルを獲得した
西武一筋で12年間プレーした金子侑司氏にとって、プロ4年目の2016年は大きな転機となった。立命大からドラフト3位で入団するも、思うような結果を残せずにいたなか、佐藤友亮外野守備・走塁コーチからの言葉で覚醒し、53盗塁で初タイトルを獲得。ただ、その背景には「泣きながら走っていました」と壮絶な物語があった。
「成績もあまり上がらず、3年目は怪我もあって出場数も少なくなって、大卒4年目で結果出さないと終わるな、と思っていました」
背水の覚悟で迎えた4年目の開幕前、新任の佐藤コーチからの言葉が刺さった。「お前は3年間何をしていたんだ。1番になれるものを持っているのに、何でその武器を使わない? タイトルを獲れる足があるんだから、獲らなきゃ駄目でしょ」。入団1年目からの盗塁数は12、21、11。金子氏の潜在能力を見抜いていた佐藤コーチの言葉に火がついた。「絶対に盗塁王を獲る」。交わした約束が、明確な目標となった。
シーズンが始まると金子氏は積極的に盗塁を仕掛け、ハイペースで数字を積み重ねた。だが、タイトルへの道は簡単ではない。オリックスの糸井嘉男も同じく盗塁を量産し始めたのだ。「なんでそんな急に走り出すの? という感じでした」。35歳を迎える糸井が盗塁王を狙う理由が金子氏には理解できなかった。
糸井はこの年の3月にFA権を取得。実績十分のベテランだったが、まだまだ走れることを見せつけるというモチベーションがあったのかもしれない。「僕としては譲ってよ、って感じでした(笑)」。両者ともに一歩も引けない事情を抱えながら、熾烈な盗塁王争いが展開されたのだった。

盗塁数で追いつくも…右脚は限界で離脱「めちゃくちゃ痛かった」
シーズン終盤に入り、金子氏は糸井を猛追した。9月17日の楽天戦では1試合3盗塁をマークし、球団史上4人目のシーズン50盗塁を達成。同23日のソフトバンク戦で53個目を決め、ついに糸井に並んだ。
「でも僕、右脚が限界だったんですよ。膝とか靭帯系とか肉離れもちょっと……9月半ばくらいからは、もう泣きながら走っていました。全然無理。めちゃくちゃ痛かったんです」
“爆弾”を抱えていた脚は、ついに悲鳴をあげた。「順位は決まっていたし、チームに迷惑をかけてしまう」。シーズン2試合を残して9月27日に出場選手登録から外れた。オリックスは残り4試合だった。「追いつくまで、やれることはやりました。あとは走らないことを祈ろうという感じでした」。
結局、両者同数で盗塁王を獲得することができた。「率直に嬉しかったですね。プロ野球の世界で自分の足跡じゃないですけど、ひとつ残すことができたなと思いました」。激痛に耐えて掴んだ初タイトルは、金子侑司というプロ野球選手にとって貴重な勲章となった。
(湯浅大 / Dai Yuasa)