「自分は必要とされていない」 大減俸→若手が優先される現実…元盗塁王の決断

西武でプレーした金子侑司氏【写真:小林靖】
西武でプレーした金子侑司氏【写真:小林靖】

元西武の金子侑司氏は2023年に引退よぎるも「ダメで辞めると思われる」

 元西武の金子侑司内野手は2024年シーズン限りで12年間に及ぶ現役生活に別れを告げた。2023年までの4年契約で思うような成績を残せず、一時はこのタイミングでの引退を考えたが、2024年を「最後の1年になるかもしれない」と覚悟を決めてプレー。ファームで結果を残すも1軍でキャリア最少の37試合の出場に終わり「自分が使ってもらう姿を想像できなくなった」と引退を決断した。

 国内フリーエージェント権取得を控えた2019年オフに4年契約を結んで“残留”。しかし、怪我や世代交代など歯車が噛み合わずに期間中に規定打席に到達したシーズンはなく、2度の盗塁王を誇る快足も4年で計27個だった。特に契約最終年は47試合で打率.179、1盗塁と苦しみ、契約更改交渉では大幅なダウン額を提示された。

「自分の給料が大きく下がったんです。それまで1度下がったことがあったけど、額は大きくなかった。自分の中では初めて下がった感覚ですよね。本当はそこでスパッと辞めようとめっちゃ思いました。ダメだったら辞めないといけない世界なので」

 厳しい現実を改めて突きつけられた。それでも現役続行を選んだのには理由があった。「『今辞めたら、ああ、ダメだったから普通に辞めたんだ』って思われる。自分はまだ動ける、やれる。応援してくれる人にそういう姿を見てもらってから辞めようと思ったんです」。

 背水の覚悟で迎えた2024年。オープン戦で少ないチャンスを生かし開幕スタメンを勝ち取った。「やっぱりいける。今年は絶対にいける」。1番打者としていい状態を保っていたものの、チームは歴史的失速もあって、来季以降を見据えた若手中心の起用へシフト。金子氏は6月3日に出場選手登録から抹消された。

「この1年、最後まで全力でやると決めていた。2軍になろうがやることは変わらなかった。自信はあったので、結果を出せばまた呼ばれると思っていました」

元西武・金子侑司氏【写真:湯浅大】
元西武・金子侑司氏【写真:湯浅大】

8月半ばには決意「辞めるなら今かな」

 この年、ファームで35試合に出場し打率.290、10盗塁と持ち味を発揮した。チーム内でトップクラスの数字を残していたが、昇格していくのは自分以外の選手ばかりだった。

「『自分は必要とされていないのかな』と思ってしまったんです。バチバチにやっている姿が全然思い浮かばなくなった」

 若手育成が優先される現実。1軍でスタンドを埋め尽くすファンの前でプレーする自分の姿をイメージできなくなっていた。相反するかのように、チームの黒星が増えていくほど、ファンの中で「金子待望論」の声は大きくなっていった。「ちゃんと見てくれて、応援してくれる人がいる。今なら惜しんでもらえる。辞めるなら今かな」。8月半ばには腹を決めた。

 妻に報告すると「まだやれるでしょ」と悔しさをにじませ、すぐには現実を受け入れられない様子だったという。そして、幼少期から人生の分岐点で後押ししてくれた父に報告すると「だろうな。いいんじゃないか」。決断の重みを理解していた。

 最後まで野球に嘘をつかず、全力で挑んだ2024年シーズン。グラウンドでやるべきことはやった。まだ34歳だったが、スピードスターは惜しまれながら引退を発表した。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

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