若手の“故意三振”に「泣きそうでした」 想定外の連続…引退試合の盗塁王に起きた奇跡

引退試合の打席で一礼する、西武時代の金子侑司氏【写真提供:産経新聞社】
引退試合の打席で一礼する、西武時代の金子侑司氏【写真提供:産経新聞社】

元西武の金子侑司氏…引退試合でおきた“奇跡”

 2024年シーズン限りで現役を引退した元西武の金子侑司氏は、同年9月15日にベルーナドームで引退試合に臨んだ。8回には同僚が一丸となって起こした“奇跡”を「やばいでしょ」と回顧。さらに守備でファンを魅了するために帽子に、ある“細工”をしていたことも明かした。

「絶対に回ってこないと思っていました。油断していましたもん。前の打席が最後だと思っていたので」

 自身ノーヒットで迎えた7回1死二塁の第4打席では、投手の足元へ強烈なゴロを放った。「打った瞬間、めっちゃスローに見えたんです。あんなことは初めてでした。(中前打で)一、三塁になるかランナーが還ってくるか。どっちにしても単独で一塁に残るので、初球で盗塁しようと決めた。打った瞬間にそこまで思い描けたんです」。2度の盗塁王らしく“有終ラン”まで瞬時にイメージしたが、打球は投手のグラブに収まった。二塁ランナーが飛び出して挟まれる間に金子氏は二塁へ到達。「そうなっちゃうか……だから引退だよな、しょうがないな」。投ゴロに終わり、ベース上で大きく天を仰いだ。

 自身も4打数無安打で幕を下ろすと“諦めて”いた8回に奇跡が生まれた。「1番・左翼」で出場しており、スコアは6-1。点差を考えると9回の西武の攻撃がある可能性は低い。“ラストイニング”の先頭だった佐藤龍世は4番。3人が出塁しないと金子氏の打順は巡ってこない状況だった。

 奇跡は起きた。佐藤龍がいきなり左越え本塁打、続く外崎は四球。1死後、平沼は右前打で一、二塁。8番・古賀は四球でベンチに向かいガッツポーズ。「ネコ(金子)さんに回せ!」。終わるわけにはいかない――。ベンチの思いが一つになった。打席の9番・元山はバットを振らずに見逃し三振。併殺打で終わることを避けての“故意三振”で1番の金子氏に繋いだのだ。

元西武・金子侑司氏【写真:湯浅大】
元西武・金子侑司氏【写真:湯浅大】

チーム一丸「ホンマにいい仲間と野球をやっていた」

「泣きそうになりました。マジかよ、みたいな。元山は去年、いい結果を残せなかったし、そんな若手にとって1打席はものすごく大事になる。僕に回そうとみんなが必死になってくれただけでも嬉しいのに、それを叶えてくれた。ホンマにいい仲間と野球をやっていたと感じました」

“主役”の登場に本拠地は大歓声。この試合、初めて右打席に入った両打ちの金子氏は渾身のスイングで強烈な弾道を放ったが、遊撃手の茶谷の好守に阻まれてのライナーに終わった。「プロ初打席が右打席でショートへの内野安打。最後も右でショートに。捕られちゃったけど、アウトになったからこそすっきりした気持ちで辞められる。清々しかったです。ヒットだったらやっぱ気持ちいいな、とかもう1回やりたいと思っちゃったんじゃないかな」。引退試合は5打数無安打。思い出を噛み締めるかのように微笑んだ。

 8回には左翼での守備で、自慢のスピードを生かして逃げていく打球に対して、帽子を飛ばしてスライディングキャッチ。サラサラヘアをなびかす姿にスタンドは熱狂した。「実はあの日だけ、帽子のサイズを上げたんです。0.5センチ上げた」。狙っていた帽子を飛ばす演出。泥臭いプレーも爽やかに、華麗に変える金子氏の真骨頂だった。  

 引退試合から約10か月が過ぎた。“これから”については「野球以外のこともやっていきたいと思います」。野球に向けていた熱量を別の分野に注ぐことが、第2の人生における真の挑戦だと考えている。「今しかできないことをやって、自分の見聞を広めていく。その中で次の熱を向けられるものを見つけていけたらいいと思います」。

 NPBで1020試合に出場し打率.241、21本塁打、223打点。2度の盗塁王(通算225個)を誇るスピードスターは、12年間というプロ野球人生を一気に駆け抜けた。

【実際の映像】引退試合で起きた奇跡…若手は“故意三振” 涙をこらえる金子侑司

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY