左肘痛が悪化…手術断り「もう治らない」 大学で現役引退を覚悟も、訪れた転機

ヤクルト時代の藤井秀悟氏【写真提供:産経新聞社】
ヤクルト時代の藤井秀悟氏【写真提供:産経新聞社】

左肘を負傷し早大入り1年時は「ほとんど覚えていない」

 ヤクルトなど4球団でプレーした藤井秀悟氏は、プロ1年目から1軍のマウンドを経験し、2年目にはリーグ最多勝に輝くなど、順調なキャリアを歩み始めた。しかし、高校3年時に肘を故障し、最後の夏は登板できないまま終了。早大に進学後も、肘の状態は万全ではなく、投げられない日々が続いたが、リハビリを経て1年秋には救援でリーグ戦に初登板。2年時から先発としても起用されるようになった。

「どういう形で投げるようになったのか、よく覚えてないんです。左だからチャンスをもらえたのかもしれないですね。1年秋もほとんど覚えていない。2年生では春に活躍できて、秋もそこそこ投げた、くらいの記憶はありますけど……」

 転機は大学3年の春だった。オープン戦で左肘が再び悪化し、靱帯損傷と診断されたが、保存療法とリハビリを選択した。「これはもう野球で投げるのは無理かもしれない、と思うこともありました。手術を勧められたのにしなかったから、もう治らないと思っていたんです」。それでも、4年秋に復活。好結果を残したことでプロからの注目を集め、逆指名のドラフト2位で慣れ親しんだ神宮球場を本拠とするヤクルトに入団することとなった。

「運良くいくつかのチームからお話がありましたが、最初は逆指名ではなかったんです。でもある球団が逆指名と言ってくれて、そしたら他の球団も次々と、逆指名で、ということになって、(最終的にヤクルトへ)行きました」

 プロの世界に足を踏み入れた藤井氏がまず驚かされたのは、投手陣のレベルの高さだった。「軽く投げているように見えて、ボールがすごく速いしキレもある、みたいな投手が多くて驚きました。アマチュア時代に見た日本生命の杉浦正則さんも、そうでしたが、プロはそんな投手ばかりでした」。当時の藤井氏は真っすぐとカーブしか投げられず、「僕自身、当時は目いっぱい、力で投げることしか知らなかった」と振り返る。

逆指名で入団…開幕1軍もすぐに2軍落ち「いつも酸欠状態に」

 新人として自分と周りの力の差を感じていたが、逆指名の左腕ということもあり開幕から1軍に帯同。「当時は若かったし頑張っていたんですけど、やっぱり大学とは違って毎日試合がありますし、ずっと筋肉痛がありました」。4月29日の巨人戦で早くもプロ初勝利を挙げるが、「5月か6月くらいにはファームに行きました」。

 河川敷の2軍本拠の戸田球場。「夏はとても暑くて、僕はいつも酸欠状態になっていました」。ランニングは本当に苦手だったそうだ。「12球団で一番走れないほうだったんじゃないかと思います。大学の時は自分で走るメニューを決めることができたんですけど、プロではメニューを決められていました」。ウェートトレーニングも本格的に始めたのはプロ入り後。「大学4年間で数えるほどしかやらなかったと思います。プロに入ったらメニューが決められていて、いろいろ教えてもらいました」。

 慣れないトレーニングに苦戦こそすれど、本格的に取り組み始めたことも大きな転機だった。「最初は決められたメニューだけで精一杯だったけど、それだけでは生き残れないと感じて、プラスアルファのものを自分でやるようになりましたね」。若手時代を過ごしたヤクルトで、基礎体力をつけることができたことが、のちに役立ったという。

「1年目はあっけなく終わりました」。リリーフのみで31試合に登板し、防御率は4.73。勝利は初勝利の1勝のみだった。ただ、2年目の2001年に最多勝のタイトルを獲得するなど大躍進することになるのだが、「入ったのがヤクルトで良かった」ともいう。同年はオープン戦で結果を残してローテ入りを勝ち取ると、そこから快進撃が始まる。終わってみればリーグ最多の14勝を挙げ、チームの日本一にも大きく貢献した。

「若手にもチャンスがもらえる環境でした。1年目はリリーフだけでしたが、先発もしたいと思っていて、長いイニングを投げるためのトレーニングをしたり、球種を増やすことに取り組みました。僕は左ということもあって、2年めはオープン戦で先発のチャンスをもらって抑えて、最終的には最多勝に繋がりました。とにかく必死に投げていましたね。無我夢中でした」

 ヤクルト、日本ハム、巨人、横浜という順番でプレーした藤井氏。「4球団でプレーしたので、どこが一番良かったですか、と聞かれることもあるんですけど、僕の中ではどこが良かった、ではなく、この順番で良かったな、と思っています」。行く先々で、自身は進化し、チームのニーズにマッチしていたと感じる現役生活だった。

(伊村弘真 / Hiromasa Imura)

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