【PR】都市対抗優勝まで初回から全力投球 プロ注目の剛球、日本通運・冨士が見せた成長

日本通運OB木南了が選手の心を深掘りする特別対談:第3回は冨士隼斗投手

 8月28日に開幕する社会人野球の頂点を決める「第96回都市対抗野球大会」。11年連続50回目の出場を決めた日本通運(南関東第1代表・さいたま市)は1964年以来、61年ぶりの優勝を目指す。

苦しみを乗り越えたチームの成長 都市対抗優勝を狙う日本通運・澤村幸明監督の決意

 都市対抗は常連の強豪チームだが、2023年、2024年と準々決勝で涙を呑んだ。ベスト8の壁を突破し、社会人野球の頂点を目指す今年、「熱・厚・圧~日本一~」のチームスローガンの下、どのようなチームを作り上げてきたのか。

 昨季限りで現役引退した元正捕手の木南了氏をナビゲーターに迎え、優勝への核になる3選手との対談を実施。第3回は、最速155キロを誇る2年目の冨士隼斗投手(平成国際大)だ。ドラフト候補としても注目を浴びる右腕が見せた成長とは……。

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木南:昨秋から本格的に先発で投げるようになって、ここまでの道のりを教えてください。

冨士:まずは春先にあまり自分の調子が上がらなくて、チームを勝たせることができませんでした。その中で、都市対抗2次予選ではチームを勝たせることができて、本当に良かったと思います。

木南:第1代表を決めるテイ・エステック戦は本当に良いピッチングだったね。1安打完封は素晴らしい。打者を圧倒する、あれ以上はない投球だった。あの試合の前はどんな準備をしたんだろう?

冨士:実は、あの前はそれほど感覚が良くはなかったんです。1回戦から1日おきに試合があったので、試合のない日はすべてブルペンに入って、少し投げながら自分で感覚を探っていきました。

木南:そうだったんだ。となると、試合前は不安な気持ちもあったとか。

冨士:試合前のブルペンはもちろん、プレーボールの声がかかるまでずっと不安でした。でも、2回か3回あたりにカーブを投げたタイミングで力とのバランスが噛み合って、自分の中で「これだ」と分かった感じ。そこから徐々に腕が振れ、ボールも操れるようになりました。

木南:その状態であの好投は素晴らしいですね。先発として意識していることはありますか。

冨士:まずは1回から全力を出して、自分の力を発揮する。そこから自分がチームの良い流れを作るというところを意識しています。

入部2年目で急成長「きっかけは咄嗟にやってきた」

木南:自分の力、強みというとことは、どう理解しているのかな。

冨士:自分の中ではやはり真っ直ぐ強みだと思っているので、それをどうやって打者に意識させるか。そこから変化球を使いながらカウントを整えていく。まずは真っ直ぐで打者を抑え込む意識を持っています。

木南:その通り、冨士の良さはやっぱり球の強さにあると思うんだよね。150キロ台の真っ直ぐを投げて、スライダーの切れもいい。入部したての頃は暴れ球で、本当にどこへ行くか分からなかったけど(笑)。でも、1年目で都市対抗のマウンドに上がり、秋には日本選手権の関東代表決定戦(JR東日本戦)で先発を任されるまでになった。その過程で自分の良さと悪さを経験できたんじゃないかと。何か良くなるきっかけはあったのかな。

冨士:きっかけは咄嗟にやってきたんです。今年の4月(28日)、ホームでのヤマハ戦で投げた時、1球、これだ!という感覚があったんです。そこから良い感覚が続いて、自信が生まれた。その次の試合では、さらに感覚が良くなって、思いきり腕を振れるようになってから、自分のボールをしっかり操れたり、打者を見て試合でも投げられたりするようになりました。

木南:元々、良い時は良い、悪い時は悪い、と両極端だったのが、安定して良いパフォーマンスを出せるようになってきた。おそらく捕手とのコミュニケーションもうまく図れているんだと思います。

冨士:そうですね。ブルペンはもちろん、プライベートでも少し時間があれば配球の話をしますし、前の試合はこうだったという反省や、次はこれを生かしていこうという話も、最近はするようになりましたね。

木南:となると、コミュニケーションの大切さを実感している。

冨士:はい。自分の意見を伝えないと相手には分かってもらえないですし、相手の意見も聞かないと考えていることが分からない。しっかり話をして、意見が合ったところは伸ばして、違ったところはどうするか話し合って、ということはしています。

木南:良い傾向だね。冨士は素直なので、言われたことを「はい」と聞いてしまうタイプ。でも、自分の意見をしっかり伝えることで、自分に対する責任も生まれるし、何より自分にとって必要なことを整理できる。1年目の冨士は自分の感覚を言語化できていなかったので、意見として伝えることは良いことだと思います。

初回から全力投球「ガス欠になったら、あとは先輩たちに任せよう」

木南:大事な試合で結果を出せるようになったけれど、マウンドで意識していることはありますか。

冨士:後ろ(ブルペン)に頼れる先輩たちがいっぱいいるので、最初からどんどん全力を出して投げるようにしています。自分がガス欠になったら、あとは先輩たちに任せようと。そうやって1イニング1イニングに集中するようになったら、逆に長いイニングを安定して投げられるようになりました。

木南:それは大事だね。この1年で本当に成長したけれど、自分の中での整理が進めば、もっと安定した活躍ができるんじゃないかと思います。この成長過程で、澤村(幸明)監督や捕手たちとかわした印象に残っている会話はある?

冨士:日立市長杯の大和高田クラブ戦は、自分が先発して負けてしまった試合。その時に監督から「球の強さはしっかり出ているから、そこは継続して、あとはコントロールできるように」と言われたことが、今年一番印象に残っています。真っ直ぐのスピードに不安があったので、この一言で自信がついて、コントロール改善に集中することができました。

木南:投げていると球速などの出力を上げる方に偏ってしまうのが冨士のクセ。球速に頼らなくても、もっと楽に抑えられるんだよっていう話は、昨年もずっとしていたよね。

冨士:そうですね。力を入れても入れなくても結果はそこまで変わらないと、先発になって気付くことができました。思いきり力を入れて投げなくても打者が真っ直ぐで差し込まれることもあるんだと、勉強になりました。

木南:先発を始めて得た学びが多そうだ。

冨士:先発になって、自分とではなく、対打者の戦いができるようになり、周りを見る力がつきました。今まで自分ばかりに向いていた意識を、外に向けられるようになったというか。自分への意識が強い時は、投球も乱れがちです(苦笑)。

木南:気持ちが強いし、マウンドを譲らない強さもあるので、まだまだ伸び代はあるし、洗練される。楽しみですね。

決勝までの5試合のうち「最低でも3試合は投げたいです」

木南:1年目から都市対抗本戦で投げ、2回無失点の好投を見せた。東京ドームのマウンドはどうでしたか。

冨士:初めて応援がある中で投げたのが昨年の都市対抗だったので、すごく印象に残っています。もう一度、あの場所で、今度は長いイニングを投げたいと思います。

木南:本当に良いパフォーマンスだったよね。緊張はしなかった?

冨士:楽しかったです!

木南:優勝を目指す上で、冨士としてはどういう大会にしたいのかな。

冨士:まずは先発にこだわって、決勝までの5試合のうち1試合でも多く投げられるようにしたいです。初戦の相手も決まって、僕の中では絶対に勝てる自信がある。そこをしっかり勝ちきって優勝したいですね。

木南:具体的には何試合くらい投げたい?

冨士:初戦、3戦目、決勝と、最低でも3試合は投げたいです。

木南:頼もしいですね。日本通運には相馬(和磨)、前田(敬太)がいて、補強選手で山本(晃希・日本製鉄かずさマジック)投手が入る中で3試合投げるとしたら、相当評価を上げないと。

冨士:そうですね。そこに向けて頑張っています。

木南:優勝の先にはプロという目標もあると思うけど、先にプロ入りした弟の存在も大きい(2024年育成1位の西武・冨士大和投手)。

冨士:刺激はかなりあります。プロの世界で頑張って、球速を上げて体も大きくなっている。自分も負けじとアピールをしたいところですが、まずはチームが優勝すること。どんな状態でも点を取られずゼロに抑えることを目指して、1戦1戦頑張ります。

(Full-Count編集部)