横山楓が長女に届けた1日遅れのウイニングボール 「崖っぷち」意識も…忘れぬ“家族愛”

オリックス・横山楓【写真:小林靖】
オリックス・横山楓【写真:小林靖】

7月末に支配下登録を掴んだ横山が忘れぬプロ初勝利

 パパとしての晴れ舞台は見せることができなかったが、プロ野球選手の証はしっかりと示した。「1日遅くなりましたが、3歳の誕生日を迎えた娘に渡そうと思っています」。4年目で初めて掴んだウイニングボールの行方を聞かれると、横山楓投手はにかんだ表情で明かした。

 横山楓は宮崎県出身。宮崎学園高、国学院大を経てセガサミーから2021年ドラフト6位でオリックスに入団した。肘をたたんだ変則的なショートアームが特徴の右腕。プロ初登板となった2023年9月30日の楽天戦では最速153キロをマークしたが、1軍登板は2023年の4試合だけ。2024年は2軍で47試合に登板し1勝5敗14セーブ、防御率3.65。ウエスタン・リーグの最多セーブのタイトルを獲得したが、オフに戦力外通告を受け育成選手として再契約した。

「かえで」という名前通り穏やかな性格で、謙虚だ。戦力外を告げられても「1軍に呼ばれるレベルに達していなかっただけです。決め球がうまくいかないと球数がかさみ、なかなか連投もきかないとなると、やっぱり(首脳陣には)使いづらいですし。自分でもそれは分かっていました」と自らを客観的に見つめ、育成での再契約に「ありがたいことです」と感謝した。

 今季からリリースポイントを上げるフォームに変えたことで、フォークが鋭く落ちるようになり、2軍では序盤から抑えを任された。30試合に登板し、30回を投げて40奪三振、奪三振率12.00、防御率2.10という安定した成績を残し、7月末に支配下登録をつかんだ。

 家族にも支えられた。「育成契約になった後、妻が毎日、お弁当を作ってくれたんです。体作りを心掛けてくれるなどサポートをしてくれました」と、内助の功に感謝する。1軍登録された8月7日の楽天戦では、3‐7の8回1死二、三塁から登板し、打者2人をフォークで遊ゴロ、空振り三振に仕留め“再デビュー戦”を飾った。マスクを被ったのは、大学の1年後輩の福永奨捕手。「いつかバッテリーを組みたい」という互いの目標を果たすことができた瞬間でもあった。

 初勝利は思わぬ形でやってきた。登板3試合目となった8月17日の西武戦。太田椋内野手の満塁本塁打、中川圭太内野手の同点本塁打で迎えた延長12回に9番手として登板。三者凡退の好投で廣岡大志内野手のサヨナラ本塁打を呼び込んだ。

 3歳の長女の誕生日だった前日は、家族が球場で観戦したが出番はなく、白星はテレビを通して送ることになったが「1軍で投げているところを見せたいですね」という思いを最高の形で実現した。

「崖っぷちにいることは変わりません。弱気にならず、ストレートで押すピッチングを続けていきたいと思います。立場が立場なので、一喜一憂せずファームでやってきたことを継続して、少しでもチームに貢献できるように頑張りたいと思います」。浮かれることなく、腕を振ることだけに集中する。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY