鷹を支える“救世主” 相次ぐ主力の離脱も…見えにくい献身、屋台骨を支える流動性

ソフトバンク・野村勇(左)と川瀬晃【写真:小林靖、古川剛伊】
ソフトバンク・野村勇(左)と川瀬晃【写真:小林靖、古川剛伊】

故障者続出の鷹に現れた“救世主”の存在

 今季のソフトバンクは、柳田悠岐外野手と近藤健介外野手に加えて、遊撃手の今宮健太内野手と三塁手の栗原陵矢内野手も故障で戦線離脱。さらに、一塁手の山川穂高内野手も不振で1軍登録を抹消される時期があり、内野の顔ぶれは非常に流動的となっていた。

 そんな中で、野村勇内野手と川瀬晃内野手がユーティリティとして内野の全ポジションをこなしつつ、ともに打撃面でも一定以上の数字を残している。今回は、両選手が記録している各種の指標と、ポジション別の出場試合数を年度別に確認していき、ホークスを支えるユーティリティプレイヤー2名の貢献度について紹介する。(※成績は8月23日の試合終了時点)

 野村は2022年に新人ながら97試合に出場し、10本塁打、10盗塁、OPS.800と好成績を残したが、2023年と2024年は2年連続で打率1割台と打撃不振に苦しんだ。この2シーズンにおいては、本塁打を除くインプレーとなった打球が安打になった割合を示す「BABIP」が基準値の.300を大きく下回っており、運に恵まれなかったことが示唆されている。

 その一方で、打率と出塁率の差を表す、打者の選球眼を示す指標の「IsoD」はプロ1年目の2022年に.073と一定の数字を記録し、2023年と2024年はいずれも.100を上回った。しかし、今季のIsoDは.049と大きく低下しており、打撃スタイルが変化していることがうかがえる。

 今季のBABIPは基準値の.300を上回る.346を記録。運に恵まれなかった過去2シーズンとは異なり、前に飛んだ打球が安打になる割合が高まっている。積極的なバッティングスタイルに転換したことによって、持ち前のパンチ力を取り戻すとともに、BABIPの上昇が生かされて打率の向上にもつながっているという考え方もできる。

 プロ1年目の2022年は、三塁手としてポジション別最多の66試合に出場し、二塁手で22試合、遊撃手で20試合に出場。内野の3ポジションに加えて外野手としても1試合に出場し、プロ1年目からマルチな才能を発揮して優勝争いを繰り広げたチームを支えた。

 2023年は25試合で守備に就いた三塁手としての出場が主となり、二塁手、遊撃手、外野手としての出場試合数はいずれも1桁にとどまった。2024年は三塁手での出場が4試合に減少したが、初めて一塁手として一軍の試合に出場。二塁手として16試合、遊撃手として11試合で守備に就いており、主戦場を二遊間に移していた。

今宮の負傷で“見えた”川瀬の成長

 今季はここまで遊撃手としてポジション別最多の56試合に出場し、三塁手としての出番も41試合と再び増加。二塁手として15試合、一塁手として3試合と内野の全ポジションを守り、複数の役割をこなしながら一定以上の打撃力を担保する貴重な存在となっている。

 また、川瀬は今季の打率は.261と、2024年に記録した打率.261という成績と同水準の数字となっている。しかし、今季はプロ初本塁打を含む2本塁打を記録し、既に自己最多となる17打点をマーク。OPSも.697とキャリア平均の.581という数字を大きく上回っており、打者としての生産性が大きく高まっている。

 IsoDも.070とキャリア平均の.050という数字を上回っており、選球眼やストライクゾーンの管理能力を示す「BB/K」も、565と、キャリア平均よりも大幅に高い数字を記録。これらの数字からも、過去のシーズンに比べて選球眼が向上していることがうかがえる。

 さらに、長打率から単打の影響を省いた、いわば真の長打力を示す「ISO」という指標も.104と、キャリアで初めて.100を上回る数字を記録。選球眼の改善に加えて長打の怖さも加わり、プロ10年目にして打者としての進歩を遂げつつある。

 1軍デビューを果たした2018年からの3年間は、二塁手と遊撃手の2つのポジションのみで出場を重ねていた。とりわけ、2020年には遊撃手として62試合に就くなど出場機会を大きく伸ばしており、キャリア初期においては二遊間を主戦場としていたことがわかる。

 しかし、2021年には二塁手、三塁手、遊撃手、外野手の4ポジションで1軍の試合に出場し、ユーティリティとしての道を歩み始める。続く2022年には、過去のシーズンでは1度も1軍で守っていなかった一塁手として、ポジション別最多の24試合に出場。内野の全ポジションにおいて2桁の試合で守備に就き、スーパーサブとして貴重な働きを見せた。

離脱者の穴を埋めた2人のユーティリティプレーヤー

 2023年には三塁手としてポジション別で最多の43試合に出場し、2年続けて内野の全ポジションで2桁の試合に出場。翌2024年には遊撃手で41試合、二塁手で34試合、一塁手で21試合に出場した一方で、三塁手としての出場は6試合にとどまった。これらの数字からも、チーム事情に応じて出場するポジションを変化させてきた。

 2025年は遊撃手としてポジション別最多の49試合に出場と、野村選手とともに今宮選手が離脱した穴を担う役目を託されていた。今季も過去3シーズンと同様に内野の全ポジションで守備に就きつつ、二塁手としてポジション別で2番目に多い18試合に出場しており、野村とはやや異なる役割を担っていることも示されている。

 野村は積極性を高めることで打率を向上させ、2年間続いた不振から脱却。主に遊撃手と三塁手を務めながら、打線のパンチ力を高める存在となっている。川瀬は選球眼と長打率を向上させ、二遊間を中心にバイプレーヤーとして複数のポジションを守りつつ、例年通りに安定した活躍を見せている。

 チームが苦境にあった時期に離脱者の穴を埋めた両選手の存在は、序盤戦の不振を乗り越えて首位を奪還するにあたって、少なからず意義を持つものとなった。今後も続く優勝争いにおいても大きな役割を果たしうる、2人のスーパーサブの活躍にぜひ注目してみてはいかがだろうか。

(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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