先発希望は「気持ちではなく、事実」 西武・平良海馬の本音…裏にあった“緻密な計算”

Full-Countの取材に応じた西武・平良海馬【写真:岡部直樹】
Full-Countの取材に応じた西武・平良海馬【写真:岡部直樹】

開幕から1度も離脱せず31セーブ、防御率1.71の好成績

 西武の平良海馬投手は今季、31セーブを挙げ、ソフトバンクの杉山一樹投手と並んで自身初の最多セーブを獲得した。振り返ってみれば昨年オフ、先発続行を望む平良と、リリーフ転向を求める球団の主張が平行線をたどり、1回目の契約更改交渉は折り合いがつかず。結局「希望のポジションではないが、球団側の気持ちが伝わったので」と“本音”を飲み込み、主にクローザーを務め、プロフェッショナルとして抜群の結果を残してみせた。その思いにインタビューで迫る。

 今季、開幕から1度も戦列を離れることなく、守護神としての役割を全う。54試合に登板し4勝2敗31セーブ、防御率1.71の圧倒的な安定感を誇った。

 ストレートの比率が約48%を占め、先発専任で11勝を挙げた一昨年(約36%)、開幕から4月末まで先発を務め、故障による3か月間の離脱を経て8月以降リリーフに回った昨年(42.1%)に比べると、真っすぐの割合が増した。「本当は40%くらいまで減らした方がいいのではないかと思っています。しかし、その中でも球速は意識していたので、その分、ストレートが多くなったのかなと思います」と自己分析する。

 開幕直後は「調子が悪くて、ストレートの球速が150キロにヒットするか、しないかくらいの時があった」と言うほど苦しんだが、リリーフに慣れるに従って調子を上げ、夏場には常時150キロ台後半を計測。「トレーニングなど取り組み自体は毎年良くなっていると思うので、引き続き頑張りたいです」と確かな手応えを感じている。

 最速160キロを誇る剛腕の中身は非常に徹底したデータ主義。1軍デビューを果たした高卒2年目の2019年オフ、球速や回転数、回転軸、変化量などを精密に測定・分析できる高性能機器「ラプソード」を自腹で購入している。

西武・平良海馬【写真:岡部直樹】
西武・平良海馬【写真:岡部直樹】

スプリットを止めチェンジアップの封印を解いた理由

 今年6月頃にスプリットを止め、代わりに2年間ほど封印していたチェンジアップを使うようになった理由も、「ストレートに対する球速比が88%だったスプリットを、92%くらいまで速くしたかったのですが、そうすると指にマメができたりして、うまくいきませんでした。そこで、以前投げていたチェンジアップを練習して使うことにしました」と実に緻密だ。今季のストレートの平均球速は約154キロで、球速比88%のスプリット(約136キロ)をやめ、約92%のチェンジアップ(約142キロ)に代えたとすれば、計算が合う。

 2022年オフと昨年オフに先発転向を強く主張したのも、個人的な希望ではなく、「リリーフで年間60イニング投げるより、その倍の投球回数を投げられる先発の方がチームに貢献できる」という客観的な考えからだった。「今季は中継ぎとしてサインしたので、中継ぎとして頑張ってきましたが、先発の方がイニングを稼げるのは事実です。僕自身、先発をやりたいという思いもありますが、あくまで気持ちではなく、事実を言っているだけです」と強調する。

「感覚も、大事だとは思います。しかし感覚だけでやってしまうと、ズレが生じるというか、感覚ではいいボールが行っていると思っても、実際にラプソードなので数値を測ってみると、そんなにいいボールではないということがある。感覚にデータを加味することによって、より正確になるのではないかと思っています」と説明する。

 また、データ主義はメンタルにもいい影響を及ぼすようだ。「野球には相手があるので、たとえ自分がいいボールを投げても、それ以上に相手がうまく打つ場合があります」と指摘。「結果的に打たれてしまうと、どうして打たれたのだろうと、あれこれ悩んだり、落ち込んだりしがちです。しかし、データをしっかり見返してみて、いいボールでコースもよかったりしたら、相手がよかったという結論で終わらせることも大事かなと思います」と独自のスタイルを貫く。安易に開き直るのではなく、データに基づいて客観的に状況を把握した上で、気持ちを切り替えるのだ。

「先発しても、抑えをやっても、やりがいはあります」と語る平良。来季以降、どんな役割を任されるとても、チームのためにベストを尽くす姿勢に変わりはない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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