8万8000円のグラブを作る葛藤「何をやってるんだろ」 直面する物価高…松坂恭平氏の思い

松坂大輔氏の弟・恭平氏は独自のブランドでグラブなどを製作
松坂大輔氏を2歳上の兄に持つ松坂恭平氏は17年間勤めた大手スポーツメーカーを退社し、2023年8月に独自のスポーツブランド「ONE OF THE ANSWER」を立ち上げた。質にこだわったグラブは他社製品と比較すると値段はやや高い。物価高が叫ばれる現在、松坂氏はポッドキャスト番組「Full-Count LAB-探求のカケラ-」でグラブ作りにかける思いと葛藤を語った。
「僕が中学生くらいの時に、最大手の一番いいグラブって多分5万円ぐらいしたと思うんですよ」。約30年前で5万円程度だった硬式用グラブは、現在でも6万円から7万円程度だという。グラブという道具の性質上、価格設定は難しい部分があることを認めつつも、「適正な価格って実はもう少し上なんじゃないかな」と本音を語った。皮を柔らかく、耐久性がでるように加工する「なめす」作業からこだわって職人が仕上げていく同社のグラブ。公式HPには8万8000円の商品がズラリと並ぶ。
しかし理想と現実の間で葛藤もある。「少子高齢化で野球やっている子も少なくなってきて、所得が上がらない」という社会状況の中で価格を上げることへの抵抗感もある。「なんか一人でグラブの価値だと言って価格を上げようとしている奴いるぞ、みたいな」と苦笑する。
「僕は本当に何をやっているんだろうって少し思ったりもします。今は“何が正しいんだ?”って思いながら日々を過ごしています」。価値を適正に評価してほしいという思いと、厳しい経済状況への配慮との間で心情が揺れ動く。それでも素材へのこだわりや職人の技術について、その背景を丁寧に伝えていきたいという信念は変わらない。
ソフトバンクの柳田悠岐外野手や日本ハムの万波中正外野手らは同社と契約し、グラブを使用している。「あれだけの選手なので、多分どこのグラブも使おうと思えば使えますし、どこでも提供してくれる。僕がやろうとしていることへの共感っていう形で使ってくれている」と背中を押されている。野球熱が上がる台湾でも松坂氏の思いに賛同した企業が国内展開し、すでに5、6人の選手が使用しているという。

恭平氏には明確な目標がある。「いいものを作って、そこで得たお金で社会に貢献したい。野球界、スポーツ界に貢献したい」。それこそが自分の使命だと語る。葛藤と向き合いながらも、質の高いグラブを作り続ける。職人の技術と情熱が詰まったグラブで、野球界の未来に少しでも力になりたいという思いが伝わってきた。