36歳が台湾で掴んだ“栄誉” 悩んだ日本との違い「苦しく、難しかった」

「前期優勝の立役者」と称えられた高塩将樹
10月6日、2025年の台湾プロ野球(CPBL)レギュラーシーズンが終了した。個人タイトルも決定し、25ホールドをあげた統一セブンイレブン・ライオンズの日本人右腕、高塩将樹が「最優秀中継ぎ投手賞(最多ホールド)」を獲得した。
高塩は昨年の6月28日、3度目の参加となったCPBLのドラフト会議で統一ライオンズから6位指名を受け、外国籍の選手として史上初めてドラフトを経てCPBL入りを果たした。36歳で迎えた2年目の今季は51試合に登板。全試合救援登板の投手では、リーグトップとなる65回2/3を投げ、3勝2敗、25ホールド、7セーブ、防御率1.64、WHIP0.96と、圧巻のパフォーマンスを見せた。
2005年に制定された「最優秀中継ぎ投手賞」で、WHIP1以下の受賞者は史上2人目。日本人投手の受賞は2013年、中信兄弟の前身「兄弟エレファンツ」の真田裕貴以来2人目となった。高塩は新人王の資格も保有しており、有力候補の1人でもある。
安定感抜群の投球内容、ときに回跨ぎも辞さないタフネスぶりで、統一ライオンズのブルペンの柱となり、前期シーズンでは優勝を決める大一番で「胴上げ投手」に。林岳平監督は「まさに日本の職人精神の持ち主。多くは語らないが、すべきことを黙々とこなす。パフォーマンスの起伏が少なく、調子が悪くても立て直せる。この世界で生き残っていくためには何をすべきか、年齢も国籍も関係ない。高塩は多くの台湾人選手にとってのお手本だ」と絶賛。ナインも「前期優勝の立役者」と口を揃えた。
後期優勝争いに貢献も、台湾シリーズ進出は叶わず
高塩は後期シーズンも好調を維持し、8月26日以降の登板は全12試合無失点、10個のホールドを積み上げ、優勝争いに貢献した。しかし、チームは後期3位タイに終わり、目標であった年間優勝はならず。楽天モンキーズと台湾シリーズ進出をかけた「プレーオフ」(4戦3勝制、統一ライオンズに1勝アドバンテージ)を戦うことになった。
しかし、そのプレーオフでは悔しさを味わうこととなった。10月10日の第1戦では8回、2-1と1点差の場面で登板し、無失点に抑えて勝利に貢献したが、王手をかけた翌11日、6-5の8回に登板も、先頭の宋嘉翔に11球粘られた末、右翼フェンスをわずかに超える同点ソロを被弾。その後は慌てず3人で抑えたが、チームは9回にサヨナラ負けを喫した。
勝った方が台湾シリーズ進出となった13日の最終戦、高塩は3-0とリードした7回から登板し、2イニングを無失点に抑える好投を見せた。3点差で残り1イニング、台湾シリーズ進出は確実かと思われたが、9回1死1、2塁から、抑えの陳韻文が同点3ランを浴びる思わぬ展開が待っていた。勢いに乗る楽天は延長戦の末、4-3で勝利。高塩の2025年シーズンが終わった。
13日の試合後、台湾シリーズ進出を決めた楽天の古久保健二監督、川岸強ピッチングコーチの元へ向かい、涙をにじませながら祝福の言葉を伝える高塩の姿を台湾メディアは捉えた。報道によると、古久保監督は高塩の1年間の素晴らしいパフォーマンスを称え、胸を張って球場を後にするよう激励したという。
ここからは、前期シーズン優勝後、後期シーズン中と、2度にわたって実施した高塩のインタビューを通じ、異国・台湾で奮闘する36歳の日本人右腕を、より踏み込んで紹介したい。
高塩のインタビューから紐解く右腕の魅力
――昨年6月28日に35歳でドラフト指名され、ほぼ1年後の6月29日。抑えれば優勝という試合を8回から任され、見事、前期シーズンの「胴上げ投手」となりました。試合後のセレモニーでもファンの声援がひときわ大きかったように思います。お気持ちはいかがでしたか?
高塩:最後に三振を取ったときは一段落したというか、少し安心したんですけど……。でも、シーズンが半分終わっただけですし。(林)監督も前期と後期、それぞれで優勝した経験はあるものの、年間優勝はまだなくて、チームとしての目標は達成していません。歓声はうれしかったですけど、「あと半分」という気持ちの方が強かったですね。
――林監督のみならず、キャプテンで「プレミア12」MVPの陳傑憲選手、元メジャーの大ベテランの胡金龍選手らが、前期優勝のキーマンとして高塩投手の名前を挙げていました。
高塩:それは本当にたまたまです。たまたま僕のパフォーマンスがよかっただけで、誰にでもヒーローになれるところはあったと思うんです。最後だけフォーカスが当てられますけど、キャンプから開幕を迎えて、みんなの力でやってきて、前期シーズンの最後だけ持っていったという形でした。プロ野球選手は1年間しっかり仕事して、はじめて評価されるものだと思っています。
――成績はもちろんのこと、統一ライオンズの林監督、ホースマン投手コーチ、全越運動(社会人)時代の呉思賢監督(現GM)など、高塩投手は指導者の方から、「姿勢」を高く評価されることが多いです。この点についてどう思いますか?
高塩:仕事ですからね。仕事は真面目にやろうっていうだけであって。普段の練習をちゃらんぽらんにやっていて、監督、コーチに信頼してもらえるかって言ったら、それは違うと思うんですよ。一般の会社の方でも言えることだと思います。その仕事、試合に対する準備は怠りたくない。あと、この年齢ですし、もしかしたらその日が1軍最後の試合になるかもしれないじゃないですか。本当にそう思っています。
プロ野球に入ってきて、1軍に立てない子も多いと思うんです。僕は試合に出してもらって幸せな立場なので、その幸せな時間を続けるためには、日々の生活の姿勢を大切にしていきたいと常々思っています。今36歳、あとはできても40歳までですよね。台湾に来てからずっと外国人としてプレーをしてきて、「もしかしたら今日が最後かもしれない、この試合が終わったら首を切られるんじゃないかな」という思いでずっとやってきました。
――ドラフト会議を経てのプロ入り。今は「台湾人」扱いでのプレーですが、「その日その日を大切にする」という気持ちは変わらないということですね。
高塩:そうですね。能力の高い選手はたくさんいるので、その人たちに抜かれるかもしれない。でも、抜かれないように。譲り渡すということはしたくないです。
――前期シーズン終盤、一時セットアッパーからクローザーへと役割が変わりましたが、気持ちの面での変化はありましたか?
高塩:確かに前期シーズンの後半、9回に投げることがありました。ただ、僕の後ろに(CPBL歴代1位、通算175セーブの)陳韻文がいる。その形は変わっていなかったので、セットアッパーであろうが、クローザーであろうが、安心して投げられました。前期の最後、陳韻文が調子を落としたときに僕がたまたま良かったから最後に投げたということです。彼がいてくれるから、僕は思い切りいけるのであって。
陳韻文のことを厳しく言う声も見かけますけど、野球の仕事のなかで、最後のアウト3つを取るのが一番大変だと思うんですよ。「3人で終われよ」って声はあるかもしれないんですけど。25、26、27個目のアウトというのは、どのクローザーでも難しいと思います。今日の仕事の集大成を任せられる、全部背負って投げる、それを毎年やってるんですから、彼はすごいです。
――林監督は、CPBLドラフトに初めて参加した2022年よりも球速がアップしていると指摘しています。特に高い空振り率が目を引きますが、どのような点が好成績につながっていると思いますか?
高塩:アマチュアでずっと続けるのであれば、2022年までの自分のやり方で多分良かったと思うんです。でも、プロにいけるかもしれないってなったときに「このままじゃダメだな。何か変えよう」と。そして「いつ終わってもいいから、思いっきり変えなきゃ。自分がいる環境は変えられないな」と思ったので、とりあえず体を変えようと。
朝昼晩めちゃくちゃ食べて、自分のバランスを崩さない程度で、ウエートの方法も変えました。僕は太れない体質なんですけど、1年間で10キロくらい増やしたら、自ずと球速も上がったんですよね。トレーニングの方法も合ったのか、偶然が重なった感じはあります。もしかすると失敗したかもしれないし、膝とか怪我のリスクもあったかもしれないし。でも、そこは越えないと次の世界にいけないなと思って、筋肉量、体重、ウエートもちょっと多めにやっていましたね。
「数字を残さないと(CPBLに)来た意味がない」
――プロ入り直後の昨シーズンと絶好調の今シーズンには、どんな違いがあるのでしょうか?
高塩:今年の方が、昨年より相手のバッターを知られているということですね。一番の理由は、昨年は途中から入って、僕はみんなのことをわからない、みんなも僕のことをわからなかったこと。そんな状態で仕事をするのは、どの世界でもキツイと思うんですよ。昨年、一軍に合流後は、ブルペンキャッチャーに受けてもらうだけで、ぶっつけ本番で試合をしていました。僕がどういうボールを投げるのかキャッチャーもわからないですし、僕もキャッチャーがどういうサインを出してくるのかわからないなかイチからやってきたので、そこが一番、僕の中で苦しく、難しかったですね。
今年はもう昨シーズンの経験もありますし、キャッチャーとコミュニケーションを取って、練習試合、オープン戦から、意見交換をしながらシーズンを迎えたので、無駄な悩みがなくなったんですよね。
――回またぎも度々ありましたが、大変ではないですか?
高塩:任された仕事をしているだけです。仕事ですから「やれ」と言われたらやるしかない。代わりが来たらどかされちゃいますし。決してイエスマンになるという意味ではないですが、信頼してくれるんだったら、それほどうれしいことはないですね。
――ブルペン陣では登板数、登板イニングがいずれも最多と、フル回転しています。夏を越して、コンディションの調整はどのように維持されていますか?
高塩:あまり前期シーズンと変わらないですね。特別変えたものはないです。準備をする時間はありますし、トレーナーもしっかり対応してくれたので、試合前に何か困ることはなかったです。
――ホールドランキングでトップを走っています。「チームの勝利が第一」と強調される高塩投手ですが、タイトルについては意識していますか?
高塩:ほかのタイトルと比べてホールドはルールも細かくて、試合結果にかかわらず記録されることもあるので、あまり意識はしていないです。タイトルのためにやっているわけではないので、あくまで副産物というか。しっかりイニング数を投げるというのが自分の仕事だと思っています。ホールド数とか、前期終盤にはセーブも挙げましたけど、個人記録については何とも思っていないですね。
――統一ライオンズのチームメイトが「高塩さんはよくメモをとっている。あのノートは『デスノート』だ」と話していました。どんな内容ですか?
高塩:練習メニューや、気をつけないといけないことを書いています。相手チームの打者全員を把握してはいないです。僕は、自分が能力の高い選手だとは思っていないので、どこで差をつけなければいけないかと思ったら「準備段階」だと。ピッチングに迷いたくないんですよ。今日の相手のチームやバッターをイメージして準備しておきたいと。特別、秘密兵器でもないですよ(笑)。
――今季は、以前から投げていたというチェンジアップが「パームボール」と大きく報じられたり、ホールド王、新人王候補と記事が出たりしました。リーグトップレベルのパフォーマンスを発揮し、注目度が格段に上がっている証明ともいえるかもしれません。いかがでしょう?
高塩:それくらいの数字を残さないと(CPBLに)来た意味がないかと思いますし、こういう選手が(台湾の)アマチュアでやっていたんだなとなれば、アマチュア球界がもっと注目されるかもしれませんし。いい流れになってくれればいいなと思います。
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高塩の謙虚な言葉の端々から感じる「矜持」、内面の強さにはしばしば圧倒された。プレーオフで感じた悔しさは、来季の大きなモチベーションとなるだろう。台湾のファンに日本語で応援されながら、仕事を黙々とこなす36歳日本人右腕の姿。野球ファンであれば、グッとくるものがあるはずだ。
(「パ・リーグ インサイト」駒田英)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)