オリ・波留新ヘッドの“心意気” 貫く指導論…愛情あふれる叱咤「ダメなものはダメ」

オリックス・波留敏夫ヘッドコーチ【写真:北野正樹】
オリックス・波留敏夫ヘッドコーチ【写真:北野正樹】

今季2監督だった波留敏夫氏が1軍ヘッドコーチに就任

 オリックスのヘッドコーチに、今季は2軍監督を務めていた波留敏夫氏が就任した。横浜(現DeNA)時代は、切り込み隊長として活躍し、コーチ時代は打撃指導だけでなく、厳しい中にも愛情のこもった言葉で選手の背中を押してきた。熱い男が、来季2年目を迎える岸田護監督を支える。

「岸田監督がやる野球を、どうやって進めていくか。1軍は結果だけのところ。選手が力を出せるようにすることが一番大事です。監督と選手のパイプ役として、とにかく円滑に進められるようにしたい」。1軍ヘッドコーチの就任要請を受けた翌日、指揮を執る「みやざきフェニックスリーグ」で真っ黒に日焼けした顔を引き締めた。

 波留ヘッドは京都市出身。大谷高、熊谷組から1993年ドラフト2位で横浜に入団。「マシンガン打線」と呼ばれた中距離打者主体のチームで、石井琢朗選手と「1、2番」を組み、1998年にはリーグ優勝、日本一に貢献した。現役引退後は、横浜、DeNA、中日で打撃コーチなどを歴任。2023年からオリックスの育成チーフコーチに就任し、今季から2軍監督を務めてきた。

 ガッツあふれるプレーで「突貫小僧」と異名を取った現役時代同様に、熱い指導で定評がある。中日の1軍打撃コーチ時代には、試合中に円陣を組んで選手を鼓舞する映像がSNS上に流され、「厳しい指導者」と誤解しているファンも多い。

 しかし、厳しさの中に愛情が込められていることは、選手たちが一番よく知っている。育成チーフコーチ時代、長距離打者として期待される選手を「選手を辞めてから後悔させたくない」との思いから、由田慎太郎・現2軍外野守備走塁コーチとマンツーマンで鍛えあげた。今、故郷で第二の人生を歩む選手は完全燃焼して静かにバットを置いた。

 2軍監督に就任後は、「投手のことはわからない」といいながらも、ビデオ映像などで成長具合をチェック。ドラフト2位の新人、寺西成騎投手が2段モーションをやめたのを見て、「なんでめたんや」と声を掛けた。「出力が上がっていなかったので気になって、ピッチングコーチとも話していたんです。何も悪いところがないのになんで変えるのかなって」という疑問に、寺西は「2段モーションを続けてきたから、ここまでくることができたんだ」とフォームを戻し、今季2勝につなげることができた。

 また、2024年オフに戦力外通告を受けた前佑囲斗投手は、「どうしたんや。今からやぞ」という波留2軍監督(当時)の言葉に育成契約での再出発を決断した。2軍で調整する1軍選手にも、温かい目は注がれた。昨年は、球団施設の舞洲で炎天下にノックを受ける宗佑磨内野手に「あと10年は現役を続けるんやろ。誰も助けてくれへんぞ」という言葉を投げかけた。「目が覚めました。時代とかもあって、そう言ってくれる人も少なくなってきていますから。その思いに応えたいと思いました」と宗。大阪弁で口は多少悪いが、思いは選手に届いている。

 育成や教育中心の2軍監督からの転身に、波留ヘッドは「教育をして野球も教える2軍と結果が全ての1軍では、全く違います。選手が働けるように、しっかりと選手にアプローチしていきます」と立場の違いを強調する。ただ、「ダメなものはダメと言います。波留敏夫はこんな人間だと野球界では知ってもらっていますから、そこは変えられません。これでやってきましたから、ブレません」とスタイルは貫く。

 1軍に選手を送り出す立場だったからこそ、チームの課題も把握している。「投手は1軍に供給できましたが、野手は多くを送り出せませんでした。今出ているレギュラーと若手選手の力の差がありすぎます。もう1年(2軍監督として)しっかりと育てたかったのですが。(1軍に)力があるうちはいいのですが、そこをうまく変えていかないと、また、暗黒時代が来ると思います。チーム力が下がり過ぎてから育てようとしても、それは負けに直結してしまいますから」。1、2軍の現状を知るだけに、チーム力強化という新たなミッションにも目を向ける。

 「1軍が勝てるように、岸田護が働けるようにしっかりと支えたい。岸田護を男にせなアカンと思います。チームがアカンかった時には、責任を取るくらい、負けたら責任を取るつもりで臨みます」。熱いハートでチームを前に進める覚悟だ。

〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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