ピッチクロックだけじゃない…井端監督が「一番困っている」 侍ジャパンにまた“難題”

2014年の日本シリーズ第5戦9回1死満塁で発生した珍事
来年3月にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を控えている野球日本代表「侍ジャパン」は12日、1週間の宮崎強化合宿を打ち上げた。次のWBCではピッチクロック、ピッチコムなど、日本プロ野球には未導入のルールが採用されるとあって、大会連覇を狙う“侍”にとっては対応が課題となる。しかし、実は日本の選手になじみのない“新ルール”はそれだけではない……。
井端弘和監督はピッチクロック、ピッチコムの練習に明け暮れた宮崎強化合宿を振り返り、「日本に無いルールにも、順応しつつあると思います。合宿最初の3日間と(10日に行われた)広島との練習試合では、どの選手もそればかりを気にして、対戦相手のことを考えるに至らなかったのですが、だいぶ慣れてきたようで、今後は違う結果を出してくれると思います」と語った。
一方、指揮官は思案顔で「いま一番困っているのは、スリーフットの問題です」と打ち明ける。
本塁から一塁までの後半部分には、ファウルラインと並行してファウルエリア側(打者走者から見て右側)に、スリーフットラインと呼ばれる白線が引かれている。打者は一塁へ走る際、基本的にファウルラインとスリーフットラインに挟まれた幅3フィート(約91センチ)のエリア(スリーフットレーン)内を走らなければならない。
スリーフットレーン絡みでファンの脳裏に焼き付いているプレーといえば、2014年の日本シリーズでの阪神・西岡剛内野手(現ロッテ・チーフ打撃コーチ兼走塁コーチ)の走塁だろう。
第5戦の1点ビハインドで迎えた9回、1死満塁の好機で打席に入った西岡氏は一塁ゴロを打ち、まず一塁手が本塁へ送球して三塁走者を封殺。捕手から一塁への返球は、打者走者の西岡氏の背中を直撃した。しかし、西岡氏はファウルラインの内側(打者走者から見て左側)を走っていたとして「守備妨害」を取られアウトに。この瞬間に併殺が成立して試合が終わり、相手のソフトバンクの日本一が決まったのだった。
守備時に「相手が内側を走ることを想定しておかないと」
ところが、メジャーリーグでは2024年から、ファウルラインの内側であっても、ファウルラインと芝生の間の土の部分であれば走っていいことになった。WBCもこれに準じることになる。西岡氏の守備妨害も、現在のメジャーリーグや国際大会なら「セーフ」だったと言えそうなのだ。
今もスリーフットレーンを厳守している日本の選手にとっては、守備時に問題が生じる。井端監督は「日本の走者に『ラインの内側を走れ』と命じることはありません。ただ、守備の時には、メジャーリーグでプレーしているアメリカやドミニカ共和国、プエルトリコなどの選手たちが、内側を走ることを想定しておかないといけない」と指摘。「特に注意が必要なのは捕手と一塁手です。これまでは、ラインの内側を走るランナーに送球をぶつけても、アピールすればアウトになったが、今後はセーフと考えなければ。何とかしないといけない」と表情を曇らせた。
テストマッチとして15、16日に東京ドームで行われる「ラグザス 侍ジャパンシリーズ2025 日本 vs 韓国」には、メジャーリーグの審判員2人が招請され審判団に加わる。侍ジャパンの選手たちがスリーフットレーンの違いを実感できるプレーが起これば、願ったりだが……。WBC連覇への道には、思わぬところに落とし穴が隠されているようだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)