“野球だけの人生”は「すごく危険」 直面する戦力外…再出発を左右する「勉強」

元DeNA・寺田光輝氏【写真:神吉孝昌】
元DeNA・寺田光輝氏【写真:神吉孝昌】

元DeNA寺田光輝さんが考える“戦力外後”の人生選択

 ほぼ全てのプロ野球選手は、現役生活よりも、その後の時間のほうが長い。いわゆる“第二の人生”をどう歩むか――。2019年限りで引退した元DeNA投手・寺田光輝さんは現在、医師を目指して東海大医学部に在学中。自身の経験を踏まえ、「セカンドキャリアを選択する上で欠かせない視点がある」と感じている。

 寺田さんがユニホームを脱いで約6年。プロでともに戦ったチームメートも、ひとり、またひとりと岐路を迎えている。今オフには、DeNA時代に親交の深かった浜口遥大投手(元ソフトバンク)や楠本泰史外野手(阪神)が戦力外通告を受けた。

 現役を続けるかどうかも含めて次なる一歩を考える中で、話し相手にでもなれればと、寺田さんは電話をかけた。「今後について、いろんな選択肢を考えているようでした。僕に意見を求めてくれ、貪欲に聞いていたので、すごいなと思いました」。力強く前を向く姿に、寺田さんの一抹の心配は吹き飛んだ。

 浜口との会話では、あらためて思うこともあった。「すごく視野が広い」。それは同時に、戦力外後の悔いなき人生選択をするための重要な“能力”であると再確認した。

「あくまで僕の経験則の話ですが、野球以外のことを知っている人は、視野が広い。勉強をしてきた人はセカンドキャリアの選択肢の幅が違うんじゃないかと」

“勉強”とは、単に偏差値ではかる学力だけではない。社会での経験や、様々な人との交流も、そのひとつ。野球界以外の世界とどれだけ接点を持ってきたか。「勉強をしていくということは、大事なことだと思います。視野を広く持っておくためにも、野球だけやっていればいいというのはすごく危険だと思います」と噛み締める。

横浜高島屋でアルバイトをする寺田光輝氏【写真:神吉孝昌】
横浜高島屋でアルバイトをする寺田光輝氏【写真:神吉孝昌】

「野球にすがる」ではなく「野球を生かす」

 寺田さん自身、経験を次のステップに生かしてきたからこそ、余計に思う。三重大を中退後、浪人生活をへて再度受験して筑波大に進学。卒業後は就職も考えたが、プロへの挑戦を続け、独立リーグの石川ミリオンスターズ(現日本海リーグ所属)に加入した。2017年のドラフト6位でDeNAから指名され、NPB選手となった。

 1軍登板はかなわず、2019年限りで戦力外に。2年でNPB人生に区切りをつけ、次の目標を医師に定めた。医師一家に育った影響が大きいが、「親から医者になれと言われたことは全くなく、自然と自分の気持ちが向かった感じですかね」と微笑む。

 プロ野球選手と医師。全く接点がないようにも思えるが「職人気質っていうんですかね。突き詰めていくという点は意外と似ていると思いますよ」。現在33歳。平日は実習や勉強に励む。「勉強する体力の衰えを感じますね……。ここ1、2年は机に向かい続けるのが本当にきついですね」と苦笑いを浮かべる。

 野球との関わりは続いている。古巣DeNAのベースボールスクールのコーチを務め、子どもたちを指導。さらに休日には、キャリア設計についての講演会に登壇することもある。

 11月上旬には、横浜市内の百貨店「横浜高島屋」の店頭に立つ姿もあった。元中日投手で、いちご生産者に転身した三ツ間卓也さんが出店するドリンクスタンドの“1日限定販売スタッフ”として参加。列をつくる客ひとりひとりに丁寧に対応し、ファンの来店には笑顔で応えた。

 医師へとまっすぐに歩を進めるが、得られる貴重な経験への労力は惜しまない。「野球にすがるのではなく、野球を生かすという考え方が大事だと思います」。元プロ野球選手として心に刻む。「偉そうに言える立場じゃないんですが……」と謙遜するものの、その言葉は第二の人生を歩む引退選手たちの羅針盤になる。

(神吉孝昌 / Takamasa Kanki)

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